建設業に関わる方で、労災保険料にまつわる疑問を抱いたことのある方は少なくないのではないでしょうか。
「労災保険料はいくらかかるの?」
「誰が労災保険料を払うの?」
そのような疑問を解決するため、この記事では、建設業の労災保険料の基礎的な知識をやさしく解説します。
また、具体的な事例をいくつか挙げて労災保険料の計算方法を説明するので、ぜひ参考にしてください。
目次
建設業の労災保険料の基礎知識
まずは、建設業の労災保険料に関する基礎知識として、保険料を負担するのは誰なのかという点と、保険加入や保険料算出が現場単位である点について説明します。
建設業の労災保険料を負担するのは?
結論からお伝えすると、建設業の労災保険料を負担するのは事業主です。
労災保険の加入義務は事業主にあります。
そのため、保険料の負担義務も事業主にあるのです。
建設業の労災保険は現場単位
建設業では、基本的に現場単位での保険加入・保険料の算出を行っています。
また、建設業では、元請け・下請け・孫請けといった複数の業者が1つの現場に入ってくることがよくあります。
そのため、元請業者は、その現場に出入りする下請業者・孫請業者の労働者の分も含めて、労災保険に加入する義務があるのです。
建設業の労災保険料の計算方法
建設業の労災保険料を算出する方法は他業種とは少し異なるため、ポイントを押さえておく必要があります。
ここでは、建設業の労災保険料の計算方式と、計算に必要な労務費率・労災保険率について解説します。
建設業と他業種で異なる労災保険料の計算方法
労災保険の保険料は、原則として、自社の全労働者に対して事業主が支払う賃金総額に、業種ごとに決められた労災保険率をかけて計算します。
一般的な事業の労災保険料の計算方法
「賃金×労災保険率」
しかし建設業では、現場単位での保険料の計算が必要となるため、他業種とは状況が異なります。
現場に出入りする業者すべての労働者の賃金を把握するのは、実質的には難しいためです。
そのため、建設業の場合、労災保険料の算定にあたって特例が設けられています。
一般的な計算方法での算出が難しい場合には、以下の方法によって計算することが可能です。
建設業の労災保険料の計算方法
「請負金額 × 労務費率 × 労災保険率」
複数の業者が出入りする現場で、全労働者の賃金総額が正確に分からない場合、上記の計算方法を用いましょう。
実際のところは、上記の計算方法のほうが建設業では一般的となっています。
請負金額とは、言葉の通り、工事の請負金額のことです。
労務費率と労災保険率は、事業の種類によってそれぞれ数値が定められています。
次項で詳しく見てみましょう。
労務費率・労災保険率は事業の種類に応じて決まる
建設業の労災保険料を計算するために必要な労務費率と労災保険率は、事業の種類によって決められています。
2022年の建設業の労務費率・労災保険率は以下の通りです。
事業の種類 | 労務費率 | 労災保険率 | |
---|---|---|---|
水力発電施設、ずい道等新設事業 | 19% | 62/1000 | |
道路新設事業 | 19% | 11/1000 | |
舗装工事業 | 17% | 9/1000 | |
鉄道または軌道新設事業 | 24% | 9/1000 | |
建築事業(既設建築物設備工事業を除く) | 23% | 9.5/1000 | |
機械装置の組立てまたは据付けの事業 | 組立てまたは取付けに関するもの | 38% | 6.5/1000 |
その他のもの | 21% | ||
その他の建設事業 | 24% | 15/1000 | |
既設建築物設備工事業 | 23% | 12/1000 |
建設業の労働保険料の具体例3選
ここでは、3つの具体例を挙げながら、建設業の労働保険料の計算方法を解説します。
なお、以下に用いる事例は、いずれも2018年4月以降に着工した工事であるという前提です。
具体例1. 店舗の外構工事
・工事内容:店舗の外構工事
・請負金額:8,995,000円(税抜)
外構工事はその他の建設事業にあたります。
そのため、労務費率は24%、労災保険率は15/1000として計算します。
8,995,000円 × 24% × 15/1000 = 32,370円
具体例1の現場の労災保険料は、「32,370円」です。
なお、請負金額に労務費率の24%をかけた段階で「2,158,800」と算出されます。
保険料を導き出す際は、1,000円未満を切り捨てた「2,158」に「15」をかけて計算しましょう。
具体例2. 建物の外壁塗装
・工事内容:建物の外壁塗装
・請負金額:2,000,000円(税抜)
外壁塗装は建築事業(既設建築物設備工事業を除く)にあたります。
そのため、労務費率は23%、労災保険率は9.5/1000として計算します。
2,000,000円 × 23% × 9.5/1000 = 4,370円
具体例2の現場の労災保険料は、「4,370円」です。
なお、請負金額に労務費率の23%をかけた段階で「460,000」と算出されます。
保険料を導き出す際は、1,000円未満を切り捨てた「460」に「9.5」をかけて計算しましょう。
具体例3. 一般住宅の内装リフォーム
・工事内容:一般住宅の内装リフォーム
・請負金額:1,500,000円(税抜)
一般住宅の内装リフォームは既設建築物設備工事業にあたります。
そのため、労務費率は23%、労災保険率は12/1000として計算します。
1,500,000円 × 23% × 12/1000 = 4,140円
具体例3の現場の労災保険料は、「4,140円」です。
なお、請負金額に労務費率の23%をかけた段階で「345,000」と算出されます。
保険料を導き出す際は、1,000円未満を切り捨てた「345」に「12」をかけて計算しましょう。
あとがき
今回は、他業種とは少し異なる建設業の労災保険料について、具体例を挙げながらお伝えしてきました。
労災保険料は事業者にとっては少なからず負担感のあるものです。
しかし、労災保険は事業者にとっても労働者にとっても欠かせない制度であるため、抜け漏れのない加入を心がけましょう。