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建設業の労災保険の基本知識!仕組みや気になる疑問をシンプルに解説!

働き方

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建設業の労災保険

建設業の労災保険には、他業種とはやや異なる点があります。
しかし、労災保険の分野には専門的な用語も多いため、苦手に感じる方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、建設業の労災保険に関する基本的な知識やよくある疑問について、分かりやすく解説します。

建設業の労災保険とは?

建設業の労災保険は、一般的な労災保険とは少し異なります。
なぜなら、その建設工事の元請会社が加入する労災保険によって、元請けの労働者はもちろん、下請けの労働者の労働災害についても補償するためです。

また、保険料についても特徴的であると言えるでしょう。
建設業の労災保険料は、元請工事額をもとに計算されるためです。

建設業の労災保険はいつ成立する?

一般的に、建設業の会社が建設工事を始める場合、労働者を使用しない工事はありません。
そのため、その建設工事の事業が始まった日に、労災保険をかけたことになります。

上の定義は、労災保険法と労働保険徴収法で定められている内容です。

労災保険法 第3条 第1項
この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする

労働者災害補償保険法|e-Gov法令検索

労働保険徴収法 第3条
労災保険法第3条第1項の適用事業の事業主については、その事業が開始された日に、その事業につき労災保険に係る労働保険の保険関係が成立する

労働保険の保険料の徴収等に関する法律|e-Gov法令検索

建設業の労災保険と元請会社

建設業の元請会社は、労働保険の保険関係成立届を提出しなければなりません。
保険関係成立届とは、労働保険が適用される建設工事などの事業について、労働者の労働保険加入義務を果たすための手続きに必要な書類です。

また、元請会社は、労災保険関係成立票を建設現場に掲示する必要もあります。

ここでは、保険関係成立届の提出と、労災保険関係成立票の掲示について解説します。

労働保険の保険関係成立届の提出

保険関係成立届は、建設工事が始まった日から10日以内に提出しなければなりません。

保険関係成立届の提出先と提出方法

保険関係成立届は、所轄の労働基準監督署に提出します。
提出方法は以下の3つから選べます。

・窓口持参
・郵送
・電子申請

保険関係成立届の用紙を入手する方法

保険関係成立届の用紙は、最寄りの労働局・労働基準監督署・公共職業安定所(ハローワーク)でもらうか、各機関から郵送してもらうことが可能です。

ここで注意しておきたいのは、保険関係成立届はダウンロード・印刷をして使用できないという点です。
保険関係成立届は、複写式の特殊様式となっています。
そのため、電子申請する場合を除き、決められた用紙を使わなければなりません。

提出しない場合はどうなる?

元請会社が保険関係成立届を提出しなかった場合、事実が発生した時期(工事開始の時期)にさかのぼって労働保険料を徴収されます。
さらに、追徴金も生じるため、提出すべき時期に提出するのが得策でしょう。

労災保険関係成立票の掲示

元請会社は、建設現場に労災保険関係成立票を掲示する必要があります。

労災保険関係成立票のサイズは縦25.0cm以上・横35.0cm以上と定められており、見やすい場所に掲げるよう義務づけられています。

出典:労働保険の保険料の徴収等に関する法律 施行規則の一部を改正する省令案の概要 (労災保険関係成立票の改正)|厚生労働省

労災保険関係成立票に記載する内容

労災保険関係成立票の記載項目は以下の通りです。

項目 記載すべき内容
保険関係成立年月日 工期の初日を記載。
労働保険番号 工事の労働保険番号を記載。
事業の期間 工事の工期を記載。
事業主の住所氏名 元請会社の住所と名称・代表者の氏名を記載。
JV(共同企業体)の場合は、共同企業体名と代表者名を記載。
注文者の氏名 工事発注者の氏名を記載。
事業主代理人の氏名 代理人選任・解任届(様式第19号)を提出している場合は、代理人の氏名を記載。
選任していない場合は、空欄とする。

労災保険関係成立票の入手方法

労災保険関係成立票の様式は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。

参考:労働保険関係各種様式|厚生労働省

B4用紙のサイズは25.7cm×36.4cmであるため、用紙いっぱいに印刷すれば、かろうじて基準を満たすことが可能です。
一方、A3用紙のサイズは29.7cm×42.0cmなので、少し余裕を持てます。

また、実店舗やネットショッピングで、労災保険関係成立票のプレートなどを購入するのも便利です。

建設業の労災保険で気になる疑問3選

建設業の労災保険に関するよくある3つの疑問と、それぞれの回答をご紹介します。

疑問1. 継続事業と有期事業の違いは?

労災保険での継続事業とは、事業の終了時期が予定されていないものです。
一方、有期事業とは、事業の終了時期が予定されているものを指します。

一般的な事業は、廃業や倒産とならない場合は事業が続くため、継続事業に該当します。
しかし、建設工事には工期が設けられているため、事業終了の時期を予定しているとみなすことが可能です。
そのため、建設工事は有期事業に該当します。

有期事業では、労災保険の加入手続きが継続事業とは異なります。
原則として、建設現場の所在地を管轄する労働基準監督署での手続きが必要です。

疑問2. 一括有期事業と単独有期事業の違いは?

一括有期事業

一括有期事業とは、有期事業のうち、労災保険料の概算見込額が160万円未満(または確定保険料が100万円未満)で、なおかつ請負金額が1億9,000万円未満のものです。

上記の場合、以下の要件を満たせば、複数の工事をまとめて1つの保険関係で処理できます。

1. それぞれの事業が、労災保険の保険関係が成立している事業のうち、土木・建築その他の工作物の建設・改造・保存・修理・変更・破壊・解体またはその準備の事業であること
2. それぞれの事業が、事業の種類を同じくすること
3. それぞれの事業の労働保険料を納付する事務が、1つの事務所で取り扱われること
4. 厚生労働大臣が指定する種類の事業以外の事業では、それぞれの事業が、「3」の事務所の所在地を管轄する都道府県労働局の管轄区域、または隣接する都道府県労働局の管轄区域(厚生労働大臣が指定する都道府県労働局の管轄区域を含む)内で行われること

一括有期事業では、工事開始のたびに、その開始日が属する月の翌月10日まで一括有期事業開始届を提出する必要があります。
また、毎年7月10日までに、概算・確定保険料申告書や一括有期事業報告書、一括有期事業総括表を提出と、保険料の納付が必要です。

一括有期事業の保険関係成立の手続きは、元請会社の本社や支店の所在地を管轄する労働基準監督署で行います。

単独有期事業

単独有期事業とは、一括有期事業にあたらない有期事業を指します。

工事のたびに、建設現場の所在地を管轄する労働基準監督署で保険関係を成立させ、工事終了ごとに保険料を清算します。

疑問3. 一元適用事業と二元適用事業の違いは?

労働保険には、今回のテーマである労災保険のほかに雇用保険があります。

労災保険と雇用保険を一括して加入手続きを行う事業が、一元適用事業です。
一方、2つの保険を個別に加入手続きを行う事業を、二元適用事業と呼びます。

建設業は、労災保険と雇用保険の加入手続きを別々に行う二元適用事業です。

建設業における労災保険は、元請会社がその工事で作業する全労働者の分の保険をかけるため、下請会社は原則として労災保険をかけません。
また、雇用保険については、元請けと下請けのそれぞれが個別にかけます。
そのため、労災保険と雇用保険を分けて手続きする必要があるのです。

ただし、現場で作業する労働者以外の労働者(営業や事務など)については、現場の労働保険が適用されません。
そのため、営業や事務などの労働者については、一元適用事業としての手続きが必要です。

あとがき

今回は、建設業の労災保険に関する基本知識をご紹介しました。
建設業では、工事の元請会社が加入する労災保険で、元請けや下請けの労働者の労働災害について補償されます。

自社が元請会社である場合は、保険関係提出届の提出や労災保険関係成立票の掲示を忘れないよう注意しましょう。

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