2024年度から、建設業の労働時間が法律で規制されます。
一定ラインを超える長時間労働は禁止され、違反すると罰則の対象になります。
この記事では、建設業の労働時間について、規制の内容や目的、今からできる対策、労働時間短縮による事業者側のメリットなどを解説していきます。
目次
建設業の労働時間。2024年度からどう変わる?
労働時間の規制は「建設業の2024年問題」とも呼ばれ、建設業界にとって深刻な課題となっています。
まずは、具体的に何が変わるのか、その内容を説明します。
そもそも、法律でいう労働時間とは
建設業に限りませんが、労働基準法では、事業者が従業員を雇った場合の労働時間について、原則、次のように定めています。これを法定労働時間と言います。
■1日8時間まで(休憩時間1時間除く)
■1週間40時間まで
しかし現実には、1日8時間以内では業務が回らないこともあります。
そこで労働基準法は、法律で定める一定の手続きを経た場合に限り、法定労働時間を超える労働を認めています。
具体的には、事業者が労働組合または労働者の代表と労働時間について合意し、その合意の内容を書面にして、労働基準監督署に届け出ます。通称「36(サブロク)協定」と呼ばれるものです。
法定労働時間を超えた分の労働時間は時間外労働(いわゆる残業)となり、通常の賃金にプラスして割増賃金が発生します。
実際の現場では、人手不足などの理由により、この時間外労働が長時間にわたっているケースも多いのではないでしょうか。
2024年度から変わるポイント
これまで、建設業においては、法定の手続きさえきちんと踏んでいれば、時間外労働の上限はありませんでした。しかし2024年度からは以下のように変わります。
まず、原則として、次の基準を両方満たす範囲内でしか、時間外労働は認められないことになります。
■月45時間以内
■年360時間以内
ただし、事業者と従業員との間に合意があり、かつ臨時的な事情があると個別に認められた場合に限って、例外が認められる場合があります。その場合でも、次の基準を超える時間外労働は違法になります。
■年720時間以内(休日労働を含まない)
■時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満
■2カ月平均、3カ月平均、…6カ月平均が全て単1月当たり80時間以内(休日労働を含む)
■時間外労働が月45時間を超過できる月は年6回まで
参照:国土交通省
なお、これらの規制に違反すると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金、あるいは企業名が公表されるなどの罰則を受けるおそれがあり、注意が必要です。
建設業の労働時間を規制する目的
労働基準法が労働時間に罰則付きの上限を設ける目的は、いわゆる働き方改革です。
労働基準法は2018年に改正されました。改正後の労働基準法は2019年に施行され、多くの業界ではこの時から、上記労働時間の規制を受けています。
建設業は環境改善に時間がかかることから5年間の猶予が与えられていました。その期限が2024年です。
労働時間の規制。事業者にメリットはある?
労働時間を法律で規制されることは、建設業事業者の方にとって負担が大きいと思います。
しかし、従業員一人一人の労働時間を短縮することは、事業者側にとっても悪いことばかりではありません。
メリットを意識した上で、労働時間の短縮に前向きに取り組みましょう。
割増賃金の削減
労働基準法上、労働時間が法定労働時間を超える場合、事業者は通常の賃金にプラスして時間外労働の割増賃金を支払う義務があります。
割増賃金は通常の賃金の25%です。仮に従業員Aさんの時給が1,000円とします。Aさんが1日に10時間働いたとすると、事業者は8時間を超える時間外労働2時間について、1時間あたり1,250円を支払うことになります。
しかも、2023年度からは中小企業を対象に、月60時間を超える時間外労働の割増賃金が50%へと引き上げられます。つまり、時間外労働が長時間に及ぶと、事業者は本来なら時給1,000円のところ1時間1,500円の賃金を支払うことになってしまいます。これは大きなコストです。
今後は、少数の従業員が長時間働くやり方よりも、人手を増やすなどして一人当たりの労働時間を短くする方が、高い割増賃金を支払う必要がなく、結果的にコスト削減につながる可能性があります。
人手不足の解消
建設業には慢性的な人手不足の問題があり、そんな中、一人あたりの労働時間を減らすのは簡単ではないと思います。
しかし、労働時間と人手不足の問題は相互に関連しており、いわば「卵が先か、鶏が先か」の関係にあります。
国土交通省のデータによると、建設業の人手不足の中でも特に深刻なのは、若年層の就職離れと離職率の高さです。
その原因の重要な一つとして、若年層はワークライフバランスを重視する傾向にあり、建設業のもつ「休日が少ない」「労働時間が長い」という側面を敬遠していることが挙げられます。
この機会に労働時間を見直し、従業員のワークライフバランスを実現できれば、それが事業者にとって若年層を採用するための強みになります。より速やかな改革に打ち出し、それをアピールすることで他の事業者との差別化を図ることもできるでしょう。
また個々の事業者が労働時間の改革に取り組んだ結果、将来的には業界全体の人手不足の解消も期待できます。
参考:国土交通省
2024年に向け、建設業が今からできる労働時間短縮のステップ
では、労働時間の規制に備えて、まず何から始めれば良いのでしょうか。
労働時間を短縮し、働き方改革を実現するための三つのステップを紹介します。
①労働時間の可視化
まずは、従業員の労働時間が規制をどのくらい超えているのか、現状を可視化します。
勤怠管理ツールや労務管理ツールを使うと、従業員ごとの動向が把握できる上、労働時間を自動で集計してくれるため便利です。
②事務負担の軽減
オーバーした労働時間を短縮するため、省略または時短できる業務がないか検討します。
例えば、ペーパーレス化やITツールの導入によって、事務作業や移動の工数を減らすことが考えられます。
③追加の人材の採用
業務を効率化しても労働時間が規制を下回らない場合、人手を増やすことで一人あたりの負担を減らします。採用の方法については専門家に相談する他、無料で使える採用メディアや採用ツールを活用するのもいいでしょう。
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まとめ
建設業にとって、今後、労働時間を見直すことは避けて通れません。
従業員にとって働きやすい環境を整え、人材不足と長時間労働のスパイラルを断ち切りましょう。