近年、建設現場での労働災害を防ぐ手法として、リスクアセスメントに注目が集まっています。
「用語としては知っているけれど、リスクアセスメントについて詳しくは分からない」という方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、リスクアセスメントの概要を分かりやすくお伝えします。
また、リスクアセスメント実施の6ステップについても詳しく解説するので、ぜひ現場の安全対策の参考にしてください。
目次
リスクアセスメントとは
建設現場の事故や災害を未然に防ぐ手法のリスクアセスメント。
意味や目的、効果などを深掘りします。
リスクとは
リスクとは、人にとってよくない事態が起こる確率と、生じたときの事態の程度の組み合わせです。
例えば、生活でよく使うハサミの場合、「よくない事態」は誤って手を切ってしまうことでしょう。
ハサミで手を切る「確率」はごくまれで、「事態の程度」は軽い切り傷であると言えます。
つまり、ハサミは必ずしも無害とは言えないため、リスクがある道具であると判断します。
では、リスクの定義を労働災害に置き換えて考えてみましょう。
【労働災害で考えるリスクの定義】
・人にとってよくない事態が起こる確率…仕事上での負傷や病気が生じる可能性
・事態の程度…負傷や病気の程度(重篤度)
仕事の上で負傷や病気が生じる可能性や重篤度が大きければ大きいほど、リスクが大きいということになります。
リスクアセスメントという用語の意味
アセスメントという言葉には、調査や評価、査定という意味があります。
そのため、リスクアセスメントを直訳すれば「リスクの調査」になります。
ただし、労働安全衛生の現場では、リスクアセスメントという言葉に「調査結果による対策や改善措置」も含めて使うのが通常です。
つまり、事故・災害を防ぐために、リスクをあらかじめ評価し対策を立てて実施する手法が、リスクアセスメントです。
リスクアセスメント実施の目的
リスクアセスメントを行う目的は以下の2点です。
・現場にあるリスクと、リスクに対する対策の実情を知ること
・災害に至る危険性と有害性を、できる限りあらかじめ取りのぞき、労災が生じない現場にすること
リスクアセスメントで得られる効果
リスクアセスメントを行った場合、以下の5つの効果が期待できます。
1. 現場のリスクが明確になる
2. 現場のリスクへの認識を、管理者含め作業者全員で共有できる
3. 安全対策について合理的に優先順位を決められる
4. 残されたリスクについて守るべきルールの理由が明確になる
5. 現場の関係者全員が参加することで、危険に対する感受性が高まる
今なお多い建設業の労働災害
年代別にデータを見てみると、近年の建設業の労働災害は減少傾向にあります。
特に死亡災害の減少が著しく、平成13年に644件だった建設業の死亡災害は、令和3年には288件となっています。
しかし、ほかの業種と比べると、建設業の死亡災害は非常に大きな割合です。
例えば、建設業の死亡災害が288件だった令和3年にクローズアップすると、全業種の死亡災害は867件です。
建設業の死亡災害は、全業種のうち33.2パーセントもの割合を占めています。
とりわけ重視したいのは、死亡災害の原因となっているのが、転落や墜落などの対策可能な事故であることです。
建設業の労働環境改善が叫ばれるなか、労働災害を防ぐ取り組みの実施が喫緊の課題となっています。
リスクアセスメントの6ステップを解説!
リスクアセスメントを実施する際には、下記の6つのステップを行いましょう。
参考:建設業におけるリスクアセスメントのすすめ方:職場のあんぜんサイト|厚生労働省
【ステップ1】危険性または有害性を調査する
危険性や有害性の調査とは、調べた危険性・有害性が災害に至るまでの過程を予測することです。
そのため、下記のように表現しましょう。
ア(作業)をするとき、イ(危険性や有害性に接近)したので、ウ(災害)になる。
例えば、「玄翁(げんのう)でコンクリート釘をたたいているとき、釘の頭が割れて飛んできたので、負傷する」という具合です。
危険性や有害性を調べるための材料には、毎日の作業手順書や事故災害事例、ヒヤリハット活動などの情報源があります。
活用しやすいものを参考にしましょう。
【ステップ2】リスクを見積もる
リスクには程度があります。
リスクの大きさに比例して、負傷や病気の重篤度や発生の可能性は高まります。
リスクの程度を分かりやすく見積もるためにおすすめなのは、リスクの程度の数値化です。
数値の高さに応じて、リスクの程度もアップします。
数値化の方法はいくつかありますが、ここではより分かりやすい3段階法の加算式をご紹介します。
負傷や病気の重篤度 | |
---|---|
3 | 死亡または極めて重大(永久的な損傷や1か月以上の休業災害、腕や脚の切断や重症中毒) |
2 | 重大(1か月未満の休業災害) |
1 | 軽微(かすり傷や不休災害) |
発生の可能性 | |
---|---|
3 | 確実または可能性が極めて高い(よほど注意しないと負傷や病気が生じる) |
2 | 可能性がある(注意しないと負傷や病気が生じる) |
1 | ほとんどない(注意しなくてもほとんど負傷や病気は生じない) |
リスクの見積もり(「負傷や病気の重篤度」に「発生の可能性」を加算した数値) | |
---|---|
6 | 今すぐ解決すべき問題がある |
5 | 重大な問題がある |
4 | かなり問題がある |
3 | 多少問題がある |
2 | 問題は少ない |
【ステップ3】リスクの優先順位をつける
前述の「【ステップ2】リスクを見積もる」で導き出した数値に対して、それぞれ優先順位をつけましょう。
見積もり6 | 優先度5(直ちに対策が必要) |
見積もり5 | 優先度4(迅速な対策が必要) |
見積もり4 | 優先度3(何らかの対策が必要) |
見積もり3 | 優先度2(ニーズに応じて対策する) |
見積もり2 | 優先度1(対策の必要はない) |
【ステップ4】リスクを減らす対策を考える
優先度の高いものから、リスクを減らす対策を考えます。
対策を検討する順番は以下の通りです。
1. 本質的な対策
案件の設計や計画の段階で、施工方法や現場設備を見直し、本質的な対策を講じましょう。
例えば、リスクのある作業を別の作業に変更したり、設備の自動化によって人の接触をなくしたりする対策が挙げられます。
有害な資材から無害な資材への変更も、リスクの低減に有効です。
2. 工学的な対策
防護柵の設置によって人が接触しないよう隔離することや、人の接近を感知して機械が停止する安全装置の設置などの工学的対策を検討します。
3. 管理的な対策
作業手順書や安全マニュアル、立入禁止の掲示を用意し、現場作業者にリスク低減対策を伝えます。
現場作業者が対策について正しく理解し、判断や操作をすることで、安全ではない行動や状態を取り除くことができます。
ただし、人が行う動作には、ヒューマンエラーがつきものです。
ヒューマンエラーを防ぐ方法についても考えておきましょう。
4. 保護具の活用
本質的対策・工学的対策・管理的対策ではリスクをのぞいたり減らしたりすることができなかった場合、最終手段として保護具の使用を検討します。
保護帽や安全靴、保護衣などの保護具を使用することで、作業者の身体を守ることが可能です。
【ステップ5】リスクを減らす対策を行う
リスク低減の対策が決まったら、担当者を中心に対策を実施します。
対策の実施後には、危険性や有害性について作業者の意見を求め、もう一度リスクの見積もりを行い、対策の効果や作業性、生産性への影響の確認が必要です。
さらに、対策実施後に新たな危険性や有害性が発生していないかをチェックするのも大切です。
もし新たな問題が発生した場合、実施したリスク低減対策を見直し、適切に対応しましょう。
また、リスクを減らす対策を実施しても、技術上の問題などから、現状ではこれ以上のリスク低減はできず、やむなく大きなリスクが残留してしまう場合があります。
リスクを減らせなかったものについても、ありのままをリスクアセスメントの記録に載せ、内容を作業者に周知します。
そして、必要な保護具の使用や作業手順書の徹底を作業者に呼びかけましょう。
【ステップ6】実施した対策の記録と効果のチェック
リスクを減らす対策を実施したあとは、結果を記録に残し、リスク低減対策が有効だったかどうかを評価しましょう。
効果のあった対策は、ほかの現場でも活用できます。
ただし、効果のなかった対策については見直しが必要です。
あとがき
今回は、リスクアセスメントの概要や具体的な方法についてご紹介しました。
現場で感じる「これ、危ないよな」という不安も、リスクアセスメントの手法を使えば分かりやすく数値化することができます。
建設現場の労働災害を減らす対策の1つとして、ぜひリスクアセスメントを実施してみてください。