建築構造を考えるシーンにしばしば登場する「ピン接合」という言葉。
「ピン接合って具体的にどんなものなの?」と感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ピン接合の概要や剛接合・半剛接合との違い、ピン接合が用いられる構造について解説します。
部材の接合方法に初めて触れる方にも分かりやすく説明するので、ぜひ参考にしてください。
ピン接合とは?
ピン接合とは、建物の構造部材を接合する方法の一つです。
柱や梁(はり)といった部材同士を、一体化させずに留めます。
ピン接合では接合部が蝶番(ちょうつがい)のように回転するので、曲げモーメント(部材を曲げようとする力)を伝えません。
そのため、変形しやすいという特徴を持っています。
変形のしやすさから、ピン接合によって柱と梁をつなぐと地震や強風に弱くなります。
建物の歪みを防ぐため、斜め部材(ブレース)の配置が重要です。
ピン接合が採用される構造は?
ピン接合の特徴は、蝶番のように回転することです。
曲げモーメントが生じないため、構造が比較的はっきりしています。
また、簡単な設計が可能なので、主に以下の2つの構造に採用されています。
・ブレース構造
・トラス構造
加えて、地震力を負担しなくてもよい小梁や、曲げモーメントを伝えたくない間柱などの場所にも、ピン接合は用いられています。
ここでは、ピン接合が採用されているブレース構造とトラス構造について見てみましょう。
ブレース構造
ブレース構造とは、鉄骨造の建物で用いられている構造形式です。
「ブレース」と呼ばれる斜め部材によって地震力を負担させるため、部材断面を合理的に使えます。
ブレースで地震力を負担できる理由は、斜めに設置したブレースに水平力が流れ、建物の変形を防げるためです。
また、ブレースは水平荷重に耐えられるので、柱や梁といった建物の主要な構造部材が壊れにくくなります。
ブレースがない場合、地震による水平荷重を受け流すのは困難です。
ブレース構造は建物だけではなく、自動車・鉄道車両・航空機などにも採用されています。
利点が印象的なブレース構造ですが、強度を重視した構造であるため、建物の間取りの自由度が低くなるという一面も持っています。
ブレースと筋交い
なお、ブレース構造と筋交いは、どちらも建物の耐震性を高めるために使われますが、同じものではありません。
ブレースは鉄筋などの形鋼(かたこう)で、筋交いは木材で作られた補強材です。
一般的に、ブレースは鉄骨造で使われ、筋交いは木造建築で用いられています。
トラス構造
トラス構造とは、部材同士を三角形につなぎあわせた構造形式を指します。
部材同士の接点には、ピン接合が用いられています。
トラス構造が採用されるのは、以下のような大きな構造物です。
・ドーム型の屋根構造を持った建築物
・大きなアーチを持った橋梁
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強度の高いトラス構造
「強い」と評されることの多いトラス構造。
その強さの理由は、「三角形」にあります。
三角形は、四角形や五角形などの多角形に比べて強い構造です。
四角形は容易に変形しますが、三角形は形が安定しているため簡単には変形しません。
トラス構造は三角形の性質を上手く利用しています。
三角形につないだ部材の両端をピン接合で留めているため、外力を加えても曲げモーメントが伝わらず、軸力しか生じません。
そのため、トラス構造は東京スカイツリーなどの大きな構造物で使用されているのです。
ピン接合のほかの接合方法は?
建物の構造部材を接合する方法は、ピン接合のほかに2つあります。
剛接合
剛接合とは、部材同士を溶接し、一体化するように接合する方法を指します。
一体化するように接合するため、接合部が変形しにくいのが特徴です。
一般的に、柱と梁などの異なる部材同士を、突き合わせ溶接によって接合します。
梁と梁を接合する場合は、梁継手(はりつぎて)と呼ばれるプレートの上から、ボルトで留めて剛接合を行います。
剛接合が用いられるのはラーメン構造
剛接合は、ラーメン構造の建造物で採用されています。
ラーメン構造とは、剛接合によって柱と梁を固く留め、水平方向の外力などに対抗できる強い建築構造です。
ブレース構造では斜め部材を入れますが、ラーメン構造では斜め部材を用いません。
そのため、間口を広く取ることが可能です。
最近のマンションや公共の建物の多くでは、ラーメン構造が採用されています。
半剛接合
半剛接合は、ピン接合と剛接合の中間の接合方法です。
3つの接合方法の接合部の違いを以下に表します。
ピン接合 | 回転する |
剛接合 | 回転しない(固定) |
半剛接合 | 回転に対して抵抗するが、回転する |
回転への抵抗は「バネ定数」と呼びます。
3つの接合方法のバネ定数は、ピン接合が0、剛接合が無限大、半剛接合は具体的な数値で表現します。
半剛接合の具体例
半剛接合は、以下のような場所で用いられます。
・杭頭(くいとう)
・露出柱脚(ろしゅつちゅうきゃく)
通常、杭頭は剛接合として設計されます。
しかし、ケースによってはピン接合や半剛接合が用いられます。
また、鉄骨造の露出柱脚は、アンカーボルトやベースプレートによって基礎構造に固く結合されているため、回転に対する抵抗性が0ではありません。
そのため、露出柱脚の接合は半剛接合です。
トラス構造の接合部や鉄骨小梁の接合部などについても、ピン接合でモデル化している場合でも、実際は半剛接合であるケースは少なくありません。
あとがき
今回の「C’Lab(シーラボ)」では、建物の構造部材を接合するピン接合について解説しました。
剛接合・半剛接合との違いや、ピン接合が用いられる構造についての理解を深める参考になれば幸いです。
3つの接合方法は、用いられる場所が異なります。
場所によって最適な接合方法を採用して、より効率的な建設を目指しましょう。