JVという言葉を耳にしたことはありますか?
「知っている」という方もいれば、「詳しくはわからない」という方もいるのではないでしょうか。
JVは共同企業体を指す言葉ですが、身近に触れたことがない場合には、複雑に感じるかもしれません。
そこで今回は、建設業のJVの概要や種類、代表的なメリットやデメリットをまとめて解説します。
目次
建設業のJVとは
JVとは、「joint venture(ジョイントベンチャー)」の略称で、共同企業体のことです。
また、新しい事業に複数の会社が出資する、合弁企業という意味ももっています。
なお、JVは法人格(株式会社や一般社団法人など)ではなく、民法においては組合として分類されます。
建設業のJVとは
建設業のJVとは、まとまった資金力や労働力を要する大きな規模の建設工事を、複数の企業で受注・施工する事業組織体を指します。
建設JVの組織は、受注した工事が完了した場合や、工事を受注できなかった場合に解散します。
JVを組む理由
建設業のJVは、1社では受注不可能な大きい規模の建設工事に参加する資格を得るために組まれます。
トンネルやダム、高層ビル、橋など多岐にわたる建設工事の種類。
どの建設工事が得意分野であるかは、企業によって異なります。
規模が大きく、高度な技術を要する工事に対して、それぞれの企業の技術力を集めることによって、工事の受注・施工を可能にするのがJVを組む理由です。
さらに、JVによってほかの企業とともに施工すると、自社の技術力の向上にもつながります。
建設業のJVの種類【活用目的・施工方式別】
建設業におけるJVの種類を、活用目的と施工方式ごとにご紹介します。
【活用目的別】建設JVの種類
建設業のJVは、活用目的ごとに下記の3つに分類できます。
・特定建設工事共同企業体(特定JV)
特定建設工事共同企業体(特定JV)は、各分野に優れた企業同士で組まれるJVです。
技術的に難しい大規模な工事にあたって、技術力の結集によって安定した施工が見込まれる場合に組織されます。
特定JVは、結成が必要な工事ごとに組まれ、工事の完了をもって解散となるのが基本の流れです。
土木工事でのJVは3社ほどで組まれる一方、高層ビルの建設でのJVでは、より多くの企業が集められます。
なお、特定JVの受注・施工を主導するのは、出資比率の最も高い企業です。
・経常建設共同企業体(経常JV)
経常建設共同企業体(経常JV)とは、中小の建設企業が継続的な協業関係をもち、経営力・施工力の強化を目的に組まれるJVです。
協業関係を続ける経常JVは、工事ごとの結成や竣工後の解散が特徴的な特定JVとは異なります。
そのため、経常JVは「通年型」と呼ばれることもあります。
単体の企業では受注不可能だった上位の工事のチャンスを得られ、中小建設企業の育成や振興に役立つ経常JV。
入札参加資格審査を申請時に、経常JVとして組織し、一定の期間中は有資格業者として登録されます。
・地域維持型建設共同企業体(地域維持型JV)
地域維持型建設共同企業体(地域維持型JV)とは、地域の社会資本の維持・管理のため、地域の建設企業が継続的に協業関係を維持するJVです。
地域維持型JVが組まれるのは、社会資本を維持・管理する工事です。
そのため、ほかのJVとは異なり、新規の工事は受注しないという特性をもっています。
地域維持型JVが求められるのは、例えばインフラの整備や修繕、除雪や除草などです。
一般に、地域の地形などに精通した、迅速な対応の可能な地元の企業が地域維持型JVに参加します。
なお、地域維持型JVは経常JVと同様に、一定期間中は有資格業者として登録されます。
【施工方式別】建設JVの種類
建設JVを施工方式ごとに分類すると、以下の2種類になります。
活用目的ごとの分類とは別に、施工方式ごとの分類をする理由は、債務不履行が起こった場合の責任の所在を明らかにするためです。
法人格ではなく組合であるとされているJVの、法的な性格を明確にし、取引先が不安を抱えないようにしています。
・共同施工方式(甲型JV)
共同施工方式(甲型JV)とは、あらかじめ定めた出資比率に応じて資金・人員・機械を拠出し、それぞれの構成員が共同で施工にあたる方式です。
出資の対象となるのは資金だけではなく、人員や機材など財産的な価値をもつすべてのものです。
損益計算は合同で行われ、利益や損失金は各企業の出資比率をもとに分配されます。
なお、最も出資比率の高い企業は、甲型JVの代表となります。
・分担施工方式(乙型JV)
分担施工方式(乙型JV)では、1つの工事を複数に分割して、参加企業が分担して施工します。
工事の分け方は、工期で分ける方法と専門分野で分ける方法の2つです。
分割された工事をそれぞれの企業が分担するため、経費と利益は企業ごとに計上されます。
また、甲型JVで行われる合同計算は、乙型JVでは実施されないので、利益の出る企業と損失の出る企業が混在する可能性があります。
建設業のJVがもつメリット・デメリット
建設JVを組むことで発生するメリット・デメリットをそれぞれ見ていきましょう。
建設業のJVのメリット
建設JVの主なメリット4つをご紹介します。
・技術力アップ
JVへの参加によって、自社の得意分野と建設全般の技術力の向上が期待できます。
とりわけ、規模の大きな工事では、高い技術とあわせて新技法の開発が必要な場合もあります。
また、複数の企業が共同で施工するためには効率化が必要とされるので、試行錯誤が欠かせません。
そのため、企業と個人両方の技術力の強化につながります。
・資金力の拡大
JVを組むメリットとして忘れてはならないのは、共同出資による資金力の拡大です。
大規模な工事の受注機会を得られるのはもちろんのこと、信用アップによって金融機関からの融資も受けやすくなります。
大きな規模の工事の受注実績などは、企業の将来設計のうえで有利に働きます。
・スムーズな施工
JVによって共同体制を築くことで、働きやすい環境が整い、分担する施工に集中できる傾向があります。
また、企業同士の連携によって施工の確実性が高まるため、難しく感じられる工事でさえも短期間で施工することが可能です。
・天災・経営不振によるリスクの軽減
全責任を負うのが一般的な単体企業での受注では、天災や経営の不振などへの対策が不可欠です。
しかし、JVによって複数企業で受注した場合、地震や台風などの天災や資金面、経営不振などのリスク負担は軽くなります。
建設業のJVのデメリット
一方、建設JVには以下の2つのデメリットもあります。
・JVスポンサーに有利
特定JVでは、出資比率の最も高い企業を「スポンサー会社」、それ以外の会社を「サブ会社」と呼びます。
法的には対等な両者ですが、見積もり業務や入札金額の決定、受注契約、協力会社の発注などを行うのは、主にスポンサー会社です。
スポンサー会社にとっては有利な選択をしやすいのが実情であるため、サブ会社は注意する必要があります。
・連携で生じる利益や責任
JVを組んで連携することにより、利益を得るだけではなく、他社に分担した工事の損益の影響を受けたり、連帯責任を負ったりすることもありえます。
JV結成前に他社の経営状況や施工の質などをよく確認しておくことはもちろんのこと、保険へ加入するなどのリスクヘッジについても考慮が必要です。
あとがき
建設JVは、資金力や労働力が必要な大規模工事を複数の企業で受注し、施工にあたる事業組織体です。
受注機会の拡大や技術力の向上など、得られるメリットの多いJVですが、当然ながらデメリットにも留意する必要があります。
活用目的や施工方式によって分けられたJVの種類や、メリット・デメリットに目を向けながら、JVへの理解を深めましょう。
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