テレビCMや新聞でも目にする機会が増えている、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉をご存じでしょうか?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、Digital Transformationの略語であり、日本語に直訳すると「デジタルによる変容」という意味の言葉です。
かつてないスピードで進化するデジタル技術を活用し、ビジネスの方法そのものを変えようとしているDXという存在。建設業においても、業界が抱える課題をDXを使って解決するケースは年々増えてきています。
今回は、建設業で進むDXの活用について、具体的な技術や、押さえておきたいポイントを紹介します。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、テクノロジーにより既存の産業構造を変化させ、今までにないビジネスモデルや生活スタイルを生み出すことを言います。
似ている言葉として「IT化」がよくあげられます。IT化はデジタル技術を活用して、既存のプロセスにおける業務の効率化やコスト削減を実現することであるのに対し、DXはプロセスそのものを変化させ、既存のビジネスモデルから脱却し、会社全体に関わるような革新的なイノベーションをもたらすことです。
出典:産業界におけるデジタルトランスフォーメーションの推進|経済産業省
建設DXとは?
建設業において、設計や施工、労務管理といった分野でDX化を進めていくことは「建設DX」と呼ばれており、業界内で注目を集めています。
例えば、オンライン会議システムを使って現場に熟練の技術者がいなくても、リモートでアドバイスが受けられる仕組みや、クラウドサービスを活用し、施工の進捗状況について誰でも簡単に確認ができる工事管理システムが登場しています。
国土交通省は、2016年からICT(情報通信技術)の活用などにより、測量から設計、施工、検査、維持管理に至る建設現場の生産性向上を目指す「i-Construction(アイ・コンストラクション)」を推進しており、今後も建設業におけるDXは加速していくと見られています。
出典:建設DX(デジタルトランスフォーメーション)への挑戦|一般社団法人東京建設業協会
建設DXの推進に必要なデジタル技術4選
業務の効率化や、社員の働き改革にもつながる建設DXを導入するためにはデジタル技術が必要です。ここでは、建設DXを成功させるための4つのデジタル技術を紹介します。
SaaS(クラウドサービス)
SaaSはデータをインターネット上で管理・保存するクラウドサービスの一種です。SaaSは業務に必要なソフトウェアを、PCなどの端末にインストールするのではなく、インターネット上で利用できる仕組みです。
パッケージソフトウェアをインストールしていた従来の方法と違い、SaaSの場合は端末側のデータ容量を最小限に抑えられる、端末の環境に依存せずにソフトウェアを利用できるなどのメリットがあります。
このSaaSを活用して、建設現場と本社とでリアルタイムな工事状況の共有もできるクラウドサービスなども展開されており、さらなる業務の効率化が期待できる技術の1つです。
AI(人工知能)
近年の建設業界における慢性的な人手不足は、技術者や資格保有者の減少を招き、依頼はあるのに工事を受注できないケースもでてきています。
そこで注目を集めているのが、蓄積されたデータをもとにパターンを自動学習するディープラーニングなども含めたAI(人工知能)技術の活用です。
現在、「自走式墨出しロボット」や「粉塵やゴミを自走しながら清掃するAIロボット」など、AI技術を搭載した建設ロボットが現場に出ており、作業員の手間を省くことに成功しているケースも。
ドローン・映像技術
搭載したカメラによる「画像・映像」の撮影はドローンの代表的な機能であり、建設現場でも活用が進んでいます。
2021年には、竹中工務店がドローンで赤外線撮影した画像を使って、外壁タイルの浮きを自動判定するシステム「スマートタイルセイバー」を開発・実用化。このシステムは、建物のCADデータとドローンの赤外線画像を繋ぐことで、仮設足場を組んで打診や目視で人が点検しなくても、修復すべきタイルのチェックを可能にします。
出典:ドローン撮影の赤外線画像から、AIが建物の外壁タイルの浮きを自動判定するシステム「スマートタイルセイバー」を開発し実用化|竹中工務店
ICT(情報通信技術)
ICTとは、インターネットを活用して知識や情報を共有することです。SNSやメールなどもICTであり、近年は社会インフラの1つとして注目を集めています。
建設DXにおいては、建設ドローンで撮影した写真情報やレーザースキャナーを用いた測量が、ICT活用の事例としてあげられます。
これらの測量では、膨大な量の点群データを短い時間で入手し、3次元データを作成することができます。従来必要だった丁張りの設置を不要としたり、建機の繊細な操作もいらないため、作業の効率化を図ることが可能に。
建設DXの実現で得られるメリット
建設DXを推奨することで、長年の課題である人材不足や長時間労働などを問題を解決できる可能性があります。ここでは建設DXを推奨するメリットを紹介します。
メリット1:次世代に技術を継承できる
建設業における従業員の高齢化は、熟練の技術者が持つ経験やスキルが、若い世代に継承されないという状況を生んでいます。
多くの技術者によって支えられてきた建設業にとって、ノウハウが蓄積されない今の現状は、業界を揺るがす深刻な問題です。
その状況を打開する手段として、熟練技術者の技術力や判断力をAIに覚えさせたり、そのデータを元に熟練技術者を模倣するAIの構築が注目を集めています。
培ってきたノウハウを会社の資産として蓄積し、いつでも抽出できるシステムを構築できるのはもちろんのこと、このノウハウと企業活動で得た過去のデータを掛け合わせることで、新しいアイデアを生み出すことも期待できます。
メリット2:業務の効率が上がる
ICTを活用して、建築の設計〜維持管理までをデータ化することで、誰でも、どこでも情報共有が可能となります。そのため、作業工程における無駄な資源や労力が簡単に確認でき、状況を改善するための行動がすぐに取れることから、建設生産効率を向上させられます。
また、勤務報告書の作成や顧客管理などのルーティン作業を自動化することで、事務所全体の効率化も図れます。
メリット3:省人化を促す
年々深刻さを増す建設業の人手不足ですが、人に代わり破砕や掘削、運搬、設置などの業務を行う建設ロボットの導入が、新たな解決策として注目を集めています。
さらに、現場に行かなければできなかった施工状況の確認作業も、ICTの遠隔技術により事務所から行えるため、1人の担当者が複数の現場を効率的に管理することも可能となります。
建設DXの押さえておきたいポイント
建設DXを進める場合には、新しい技術の導入が伴うため次のポイントに注意が必要です。
現場とのギャップに気をつける
従来の方法に慣れている建設現場に、最新のデジタル技術を導入する際は、導入するメリットやツールの使用方法をわかりやすく説明する必要があります。価値ある手法と思い導入を決めても、実際に使用する現場のスタッフがその価値を理解しなければ、建設DXは形骸化してしまい失敗に終わります。
「指示は現場にあっているか?」「ツールに慣れるまでのスケジュールに無理はないか?」など、常に現場を気に掛けフォローしていきましょう。
複数のデジタル技術を導入する
建設業務のデジタル化を成功させるには、「ICT×ドローン」「AI×クラウドサービス」などデジタル技術を掛け合わせる必要があります。先端のデジタル技術そのものが、お互いの技術と密接に関係し合いながら成り立っているからです。
複雑なデジタル技術を掛け合わせるのには、膨大な専門知識が必要となります。ですので、建設DXを導入する際は、幅広いデジタル技術に対応できる専門業者に相談することをおすすめします。
あとがき
今回は、建設業におけるDXの活用方法や、押さえておきたいポイントについてご紹介しました。
「ICTなどのデジタル技術を活用したイノベーション」と聞くと、パソコンでの作業やオフィスワークをイメージされる方もいますが、デジタルデバイスも進化を続けていますので、スマートフォン1つあればDXを進められる時代になりつつあります。
多くの建設現場が導入を始めており、生産性のアップにもつながっているDXについて、取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。