ゲームや映画など、エンターテイメント分野で紹介される機会の多いVR(ヴァーチャルリアリティ、仮想現実)。そんなVRですが、活用分野は非常に広く、建設業においてもVRを利用した新たな取り組みが始まっています。今回は、建設業におけるVRの活用事例や、導入におけるメリット、注意点について紹介します。
目次
VR(ヴァーチャルリアリティ、仮想現実)とは?
VRとは「Virtual Reality」の略で、日本においては「仮想現実」とも呼ばれています。専用のゴーグルを使い、体験者の目の前に360℃映像を映し出すことで、あたかも映し出された世界に自分が存在しているかのような没入感が得られるのが特徴です。
また、近年発売されているVRコンテンツは、自分の動きがVR映像内に反映されるものが多く、限りなく実体験に近い体験が得られることも。
出典:VRとは?仮想空間を体験できる仕組みやARとの違いなどVRの基礎知識を解説:NECソリューションイノベータ
建設業とVR技術
建設現場には、資材の落下や足場の崩壊など予測不能のリスクが潜んでいます。そのため、現場に出る前の安全研修が欠かせません。その安全研修において、VRを活用する動きが活発になってきています。VR技術を活用すると、仮想空間の中で危険な体験ができるため、実際に現場に出た際も具体的なイメージを持って働くことができます。安全管理の面から見て、建設業とVRは親和性の高い組み合わせと言えるでしょう。
建設業におけるVRの活用事例
次に、建設業におけるVR技術を活用した取り組み事例を3つ紹介します。
大林組
2016年11月、大林組は株式会社積木製作と共同で、VR技術を用いたVR教育システム「VRiel」を開発しました。これまで大林組では、建設現場における管理技術継承のため、自社施設内に鉄筋や型枠を組んだ教育用の躯体モックアップを構築し、鉄筋配置の不具合箇所を探す体験型社員研修を行っておりました。
この体験型研修の場合、研修パターンが固定されてしまう点や、研修を実施できる場所が限られてしまう点がメリットでした。その点、専用のVRゴーグルがあればどこでも研修が実施でき、パソコン1つでさまざまなパターンの研修が作れる「VRiel」は、研修概念を覆す教育ツールとして高い注目を集めています。
出典:VR技術を活用した施工管理者向け教育システム「VRiel(ヴリエル)」を開発:大林組
東急建設
東急建設は、施工を実施する構造物の3次元モデルをVR空間に作成し、関係者同士が同じイメージを共有することで、迅速な情報共有・合意形成を行うことを目的とした実証実験を行っています。
今回の実証実験は、東京メトロ銀座線渋谷駅の線路切替工事で行われ、リコーが提供する「リコーバーチャルワークプレイス」が使用されています。
出典:東京メトロ銀座線渋谷駅線路切替工事プロジェクト~BIM/CIMの実践~:東急建設
三徳コーポレーション
三徳コーポレーションは、VR技術を使って、危険な事故を安全かつ効果的に体感・訓練する災害体感VR「RiMM」を開発。VRにより五感(視覚+聴覚+触覚+臭覚)が再現されており、「怖い+嫌だ!」というリアルな感覚を得ることができ、危険感受性を高めることが可能に。
出典:リム 危険感受性教育(災害体感VR):三徳コーポレーション
VRを建設現場に活用するメリットと注意点
上記では、建設業におけるVR活用事例を紹介しました。その事例も踏まえて、建設現場にVRを導入するメリットと、導入の際に注意する点についてまとめていきます。
VR×建設のメリット
竣工前に完成後のイメージがしやすくなる
建造物を建設する上で、口頭や書類だけの指示では、社員による認識の違いから無駄な確認作業や、ミスが生じる場合があります。しかし、VRを活用することで、作業員全員が同じイメージを共有することが可能となり、作業効率のアップが期待できます。
また、VRを使って立体的なイメージを提示できることは、「欲しかった建物と違う!」という顧客ニーズとのミスマッチを防ぐこともできるため、顧客とのコミュニケーションツールとしても有効です。
設計の段階で建物の風通しなどの環境確認が可能
VRを活用することで、さまざまな条件でのシミュレーションが可能となることから、建設前であっても、建物の快適性や問題点を調査することができます。
例えば、日照シミュレーションをVR内の3Dモデルに用いることで、設計図では見えてこない建物内部の日当たり状況や、温度変化についても検証することが可能となります。
事故を未然に防ぐための教育ツールとして有効
建設業におけるVRの導入事例でも紹介しましたが、VRを活用することで、時間や場所に関係なく安全な環境で社員教育を実施することができます。建設現場の場合は、質の高い社員研修は社員の命を守ることに直結しますので、VRを用いた研修は企業の安全管理をPRするツールとしても有効です。
VR×建設の注意点
会社内外で活躍が期待できるVRですが、導入に際しては注意したい点もあります。
操作に慣れるまでに時間がかかる
従来の方法に慣れている建設現場に、最新のVR技術を導入する際は、VRゴーグルなどのツールの使用方法についてわかりやすく説明する必要があります。
「導入するツールは現場にあっているか?」「ツールに慣れるまでのスケジュールに無理はないか?」など、常に現場を気に掛けフォローしていきましょう。
VR酔いに注意が必要
VR映像を見ている場合、人によっては乗り物酔いのような症状がでることがあります。これは、視覚的には体が動いているという信号が脳に送られているのにも関わらず、実際には筋肉が動いていないことによる平衡感覚の不一致が原因とされています。
これらの症状に対処するため、広い視野角をもつVRゴーグルを使用したり、映像の中の遠くの部分を見ることが有効だと言われていますので、VRを導入する際は配慮をしましょう。
あとがき
今回は、建設業におけるVRの活用事例や、導入におけるメリットや注意点について紹介しました。
2020年ごろから導入が始まり、高速・大容量通信が可能な第5世代移動通信システム「5G」の存在もあり、VR市場は今後さらなる拡大が見込まれます。
さらに、常にリスクマネージメントが求められる建設現場において、現実に起こりえることを体感することができるVR技術は、社員の安全確保はもちろんのこと、企業価値の向上にも貢献します。
ぜひ一度、現場へのVR技術導入について、検討してみてはいかがでしょうか。
▽こちらの記事もおすすめ▽
建設業界でデジタルツインに期待高まる!国内の活用事例やメリットは?