本記事では、建設業で派遣が禁止される業務と、派遣が可能な業務について派遣労働者を受け入れる際の法律上のルールについて解説します。
建設業務の派遣禁止
建設業務の派遣は法律上禁止されています。
第四条 何人も、次の各号のいずれかに該当する業務について、労働者派遣事業を行つてはならない。
e-Gov法令検索│労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
~(中略)~
二 建設業務(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務をいう。)
~(中略)~
3 労働者派遣事業を行う事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その指揮命令の下に当該労働者派遣に係る派遣労働者を第一項各号のいずれかに該当する業務に従事させてはならない。
建設業務とは、建築工事現場における、土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの準備の作業に係る業務です。これらの業務を目的として人材を派遣することも、派遣された人材をこれらの業務に従事させることも、どちらも禁止されています。
これに違反すると、派遣元企業は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金(派遣法第59条)に処される他、労働局から労働者派遣の事業停止命令などの行政処分が下されます。
派遣先企業は、違法派遣を受け入れた時点で、派遣元企業と同じ条件で派遣労働者に労働契約の申し込みをしたものとみなされ、派遣労働者が承諾をすると、直接雇用をすることになります。
派遣が禁止される建設業務の例
① ビル・家屋等の建築現場における資材の運搬・組み立て等(施行計画の作成や、工程管理・品質管理などは含まない)
②道路・河川・橋・鉄道・港湾・空港等の開設・修築などの工事現場における掘削・埋め立て・資材の運搬・組み立て等(施行計画の作成や、工程管理・品質管理などは含まない)
➂建築・土木工事におけるコンクリートの合成、建材の加工(現場での準備作業全般を含む)
④建築・土木工事現場内での資材・機材の配送(現場外からの資材の搬入は含まない)
➄壁や天井・床の塗装・補修
⑥建具類等の固定または撤去
⑦電飾版や看板などの設置または撤去
⑧建築・土木工事現場内における配電・配管工事および機器の設置
⑨建築・土木工事後の現場の整理・清掃(内装仕上げ)
⑩イベント会場などの大型仮設テントや大型仮設舞台の設置(簡易テントの設営、パーティションの設置などは含まない。また、椅子の搬入や舞台装置・大道具・小道具の設置等も含まない)
⑪仮設住宅(プレハブ住宅等)の組み立て
⑫建造物や家屋の解体
建設業でも派遣が可能な業務
建設にかかわる業務であっても、上記建設業務以外の業務については、派遣が認められています。
①事務員
➁CADオペレー ター
➂施工管理
④業務専任の主任技術者・監理技術者
※ただし、程管理や品質管理などの施工管理業務にのみ従事する現場監督に限る。
ただし、これらの業務を目的として受け入れた派遣労働者に上記建設業務を行わせた場合(施工管理として派遣された者が作業を手伝うなど)は違法となります。
派遣を受け入れるときのルール
派遣労働者を受け入れる際は、派遣法上次のルールがあります。
e-Gov法令検索│労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(派遣法)
①期間制限
・同一事業所(本社・支社など)に派遣労働者を派遣できる期間は、原則として3年が上限です(派遣法第40条の2第2項)。ただし、労働組合または労働者の過半数を代表する労働者に意見聴取することで更に3年間期間を延長できます。
・同じ派遣労働者を同一の組織(部署・グループなど)に派遣できる期間は、3年が上限です(延長不可)。
・どちらの期間制限も、派遣会社に無期限で雇用されている派遣労働者は例外となります。
②派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止
派遣労働者を受け入れる企業は、派遣労働者と事前の面接・面談をし、または事前に履歴書を確認するなど、受け入れる派遣労働者を特定しようとする行為をしてはいけません(派遣法第26条第6項)。ただし、紹介予定派遣の場合は例外です。
➂適切な派遣契約の締結
派遣労働者を受け入れる企業が派遣元との間で締結する派遣契約においては、業務内容・就業場所・派遣期間のほか、派遣先の都合による派遣契約の中途解除の際に派遣労働者の雇用の安定を図るための措置についても定めることが必要です(下記厚労省の要領第5を参照)
④離職1年以内の労働者の派遣受け入れ禁止(法第40条の9第1項)
➄適正な派遣就業の確保
派遣労働者を受け入れる企業は、ハラスメントの防止や派遣労働者から苦情があった場合の処理など、派遣労働者の適正な就業環境を確保する行動が求められます(派遣法第40条)。
⑥派遣先責任者の選任・派遣先管理台帳の作成
派遣労働者を受け入れる企業は、各事業所において最低1人(さらに派遣労働者100人ごとに1人づつ追加)、派遣元事業所との連絡調整や適正な派遣就業の確保を図るための「派遣先責任者」を選任する必要があります。
⑦派遣労働者の雇い入れ努力義務など
・派遣労働者を受け入れた企業は、派遣受け入れ終了後、派遣労働者にさせていたのと同じ仕事をさせるため直接雇用の労働者を雇い入れようとする場合には、その派遣労働者が一定の条件に合致する場合、その派遣労働者を雇い入れる努力義務があります(派遣法第40条の4)。
・ここでいう一定の条件とは、本人が継続して就業することを希望していること、派遣先の事業所等の組織単位ごとの同一の業務について1 年以上継続して派遣労働に従事した有期雇用派遣労働者であること、本人について派遣元事業主から直接雇用の依頼があることを指します。
⑧求人の告知義務
・一定の条件(派遣先の事業所等の組織単位ごとの同一の業務について1 年以上継続して派遣労働に従事した有期雇用派遣労働者であること、3年以上継続して労働に従事する見込みがある有期派遣労働者であること、本人について派遣元事業主から直接雇用の依頼があること)を満たす派遣労働者に対しては、自社の求人(正社員に限らない)を告知する義務があります(派遣法第40条の5第1項)。
・同じく、一定の条件(派遣先の同一事業所等において1 年以上継続して派遣労働に従事している有期又は無期雇用の派遣労働者であること)に対しても、自社の求人(正社員のみで良い)を告知する必要があります(派遣法第40条の5第2項)。
⑨派遣労働者と派遣先社員等の均等・均衡待遇
⑩中途解約の場合における新たな就業機会の確保
派遣契約を中途解約する場合、派遣先の関連会社での就業のあっせんなどにより派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることが必要です(下記厚労省の要領第5を参照)
派遣労働者を受け入れる企業が上記に違反し、派遣禁止業務への派遣労働者の受け入れ、期間制限を超える派遣労働者を受け入れを行った場合、または無許可事業主から派遣労働者を受け入れた場合やいわゆる偽装請負など不正な派遣労働者の受け入れを行った場合などは、その企業から派遣労働者本人に対し直接雇用の申し込みがあったものと法律上みなされ、派遣労働者が承諾した時点で、企業が派遣労働者を直接雇用する雇用契約が成立します(法第40条の6)。
まとめ
これらの規制については、厚生労働省が公式の取扱要領を公表しています(派遣労働者受け入れ企業に関する内容は要領第7および第5)。随時確認しながら運用できれば、違法な派遣が問題になる可能性は低いでしょう。
■厚生労働省│労働者派遣事業関係業務取扱要領(派遣先の講ずべき措置等)第7
■厚生労働省│労働者派遣事業関係業務取扱要領(派遣先の講ずべき措置等)第5