近年、「建物をより長く使おう」という考え方が広まってきました。
大きな費用を投入し、半世紀ほど使いつづけることになる建物。その建設計画を立てる際には、ライフサイクルコスト(LCC)についてもしっかりと考えることが大切です。
ライフサイクルコストを最適化できるかどうかが、その建物の所有者の収支を大きく左右すると言っても過言ではないでしょう。
今回は、そんなライフサイクルコストの概要と、コストを低減する3つの方法についてお伝えしていきます。
目次
ライフサイクルコスト(LCC)とは?
ライフサイクルコスト(Life cycle cost)とは、製品や構造物(建物や橋、道路など)がつくられてから、その役割を終えるまでにかかる費用を大きくとらえたものです。
建物を例に挙げると、企画、設計から始まり、施工、竣工、運用を経て、修繕、耐用年数の経過により最後に解体処分されるまでを「建物の生涯」と定義して、その全ての期間に必要な費用(コスト)を意味します。
つまり、ライフサイクルコストとは、つぎの費用の合計であるということになります。
・建設費(建物の企画・土地取得・設計・施工など)
・水光熱費(上下水道代、電気代、ガス代等)
・保守点検費(定期点検費、メンテナンス委託費など)
・保険(火災保険、地震保険等)
・税金(固定資産税等)
・修繕、更新費(部品、部材の修繕、取り替え)
・清掃費(清掃会社委託)
・警備費(警備会社委託)
・解体処分費
「生涯費用」という呼び方が使用されたり、「LCC」と略称で呼ばれたりすることもあるライフサイクルコスト。その構成は、イニシャルコストとランニングコストの2つの要素でなりたっています。
イニシャルコストは、その建物をつくるためにかかる初期建設費のことで、上のリストでいうと「建設費」がそれにあたります。また、ランニングコストは、その建物を使いつづけるために必要な費用のことで、上のリストでいうと「水光熱費」以下すべてが該当します。
ライフサイクルコストの大切さ
建物のライフサイクルコストは、前述の2要素のうち、ランニングコストが大きなウエイトを占めています。一般に、オフィスビルでは建物の建設にかかる費用よりも、竣工後の運営維持管理費の方が3~4倍近く多くなるという試算もあります。
とは言っても、イニシャルコストの段階(建物の企画・設計、施工)を重視しなくてもいいというわけではありません。むしろ、省エネルギーや将来的なメンテナンス計画まで視野に入れて、念入りに建物の運営を検討するために、とても重要な段階であるといえます。
また、同額の費用の使用で、建物をより長く使おうと考えることで、建物のライフサイクルコストを最適にすることができます。その考え方を具体化したものが、建物の定期的な修繕の実施です。
「建物ができあがった時点で、ライフサイクルコストの観点から長期的な修繕計画を作成したい」――今、そうした希望を業者に伝え、建物の資産的価値の維持・向上に努める建物のオーナーが増えています。
ライフサイクルコストを考える上で注意したいポイント
しかし、建物のライフサイクルコストを考えるにあたり、注意しておきたいポイントももちろんあります。それは、「建物や企業の経営を取り巻く環境は変化していく」という点です。
60年ともいわれる建物の寿命。建物を使用する期間が長ければ長いほど、ライフサイクルコストの計算には誤差が出てきます。
例えば、建物を所有する企業を取り巻く、経済環境の変化のような外的な要因。もしくは、使用期間・頻度などの見込み違いによる減価償却期間のズレや、設計や指示書のミスによるメンテナンス費用の増大などの内的な要因からも、不測の事態は起こりえます。
想定していない費用の発生を、完全に防ぐのはとても難しいことです。そのため、計画の段階で、将来的に生じる誤差も視野に入れながら、融通性のある企画を作成することが重要です。
ライフサイクルコスト低減の方法まとめ
ライフサイクルコストを減らすための工夫についてまとめました。具体的な方法はつぎの3つです。
・長寿命で高い耐久性の部材や機器を採用する
・エネルギーや水の使用量を減らす工夫をおこなう
・できるだけかんたんに維持・管理できるようにする
ひとつずつ解説していきます。
長寿命で高い耐久性の部材や機器を採用する
長寿命タイプ、高耐久性タイプの部材を使用することで、修繕や更新にかかるコストを抑えることができ、同時に、建物を長く使うことにもつながります。
例:老朽化が進んでいく外装材には耐候性のものを使用する、各設備工事に使う配管材には耐久性のある材料を採用する、など
エネルギーや水の使用量を減らす工夫をおこなう
相場と比較して安価な深夜電力を昼間に利用できる蓄電システムやエコキュートを採用したり、外断熱や高断熱材によって断熱仕様にしたりすることで、水や光熱費を低減することができます。
その他にも、電気消し忘れ防止の人感センサースイッチや、井水や雨水の利用など、さまざまな工夫が存在します。
できるだけかんたんに維持・管理できるようにする
建物の維持・管理をできるだけ容易にできるように設計することで、そこにかかる人的コストを減らすことができます。
また、特殊な設備や部材を採用すると、交換の際に割高となってしまいます。そのため、かんたんに手に入る部材を使うよう意識することも、コスト削減の大事なコツです。
あとがき
今回は、ライフサイクルコストの概要と、コストを低減する3つの方法についてご紹介してきました。
ライフサイクルコストの考え方を理解すると、建物の価値は長いスパンでとらえることが大切なのだということがよくわかります。
「見た目がオシャレ」などのデザイン性だけではなく、建物の使いやすさ、耐震性、耐久性、更新や修繕のしやすさ、省エネなど、目には見えない本質的な機能や性能が最適であることに大きな意味があります。
「長期的な視点から、いかに建物を建設するべきか?」「いかに維持管理をしていくか?」など、日々の建設の業務にライフサイクルコストの視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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