近年では、さまざまな企業が環境問題解決へ向けた活動を行っています。
環境問題を考える際に注目されているのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)と呼ばれる評価手法です。
建設業界でも注目されるLCAの手法。
今回は、そんなLCAの概要や建設業とのかかわり、具体的な活動事例をご紹介します。
目次
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは
サービスや商品の原料を調達するときから、生産、流通、廃棄、リサイクルにいたるまでの、一連のライフサイクル。
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、サービスや製品がライフサイクルにおいて環境に与える影響を、具体的に評価する手法です。
LCA(ライフサイクルアセスメント)の活用方法
LCA(ライフサイクルアセスメント)の評価手法は、企業や行政レベルで幅広く生かされています。
LCAの具体的な活用方法は以下の6つです。
・製品評価
比較評価、工程の見直しと改善
・環境ラベル
製品の環境負荷と環境影響の情報開示
・グリーン調達
調達した原料の環境影響評価、調達先の選定
・環境報告書
環境保全に関する方針や目標、企業活動の数値化
・環境会計
二酸化炭素の排出量やエネルギー消費量の削減値・使用量の明確化
・ISO14001(環境マネジメントシステム)
環境目標値・基準値の達成度の評価と環境管理
建設業とLCA(ライフサイクルアセスメント)
1つの建物をつくるとき、企画設計から資材調達・施工・運用・改修・解体にいたるライフサイクルで、大きなエネルギー消費や二酸化炭素排出といった環境負荷がかかります。
建設業のLCA(ライフサイクルアセスメント)では、「建物の一生」における環境負荷を評価します。
また、建設作業中の重機の使用や、重機の製造も評価の対象です。
全世界の二酸化炭素排出量に占める建設部門の割合は、約37%と言われています。
SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、建物の建設計画時に、その建物が「生涯」にわたって環境に与える影響を評価・設計することが必要なのです。
建設業界のLCA(ライフサイクルアセスメント)活用事例
ここまで、LCA(ライフサイクルアセスメント)の情報をお伝えしてきました。
では、建設業界におけるLCAの取り組みは、どのように行われているのでしょうか。
建設業のLCA活用事例を2つご紹介します。
活用事例1:住友林業
住友林業は、フィンランドの企業・One Click LCAと、建物の二酸化炭素排出量などを見える化するソフトウェア「One Click LCA」の日本単独代理店契約を結びました。
「One Click LCA」は、ヨーロッパを中心に130か国で利用されているソフトウェアです。
ISO規格(国際的な規模で基準を統一する規格)や欧州規格を含めた、世界の50種類以上の環境認証に対応しています。
ライフサイクル全体での環境負荷を評価するLCAを通して、建設現場で実際に使う個々の資材データをもとに、「建物の一生」における二酸化炭素排出量などの算定が可能です。
ヨーロッパ各国では、二酸化炭素排出量の見える化が進んでいます。
高い環境意識をもつディベロッパー(土地や街の開発事業者)やオーナー、金融機関、投資家、テナントは、環境負荷の少ない建物を積極的に選びます。
しかし日本では、建物居住時のエネルギー使用による二酸化炭素排出量の見える化や削減の取り組みに比べて、「建物の一生」における排出量の見える化・削減はあまり普及していません。
住友林業は、国内外の企業や投資家が建物を選ぶときに1つの指標とする、「建物の一生」の二酸化炭素排出量を見える化することが、建設業界にとって重要であると訴えています。
住友林業が推進するLCA事業は以下の3点です。
【日本語版ソフトウェアの販売とEPD取得支援】
・ソフトウェア「One Click LCA」を日本市場に合うようにカスタマイズし、One Click LCA社と共同で日本語でのカスタマーサポートを実施。
・日本市場で本格的に広める際に欠かせないEPDデータの蓄積に向けて、木材・建材メーカーのEPD取得をサポート。
【LCAの普及活動】
・ディベロッパーや金融機関に対する、建設業界のLCAや「環境配慮型建物」の重要性の働きかけ。
・環境認証団体や官公庁との連携を推進。
・木造建築に限らず、RC造や鉄骨造などの主要な工法の建物の経済的価値向上につながる、二酸化炭素排出量の見える化・削減を推進。
・ソフトウェア「One Click LCA」を利用した、国内外での環境配慮型建築、開発事業の創出への取り組み。
【LCAコンサルティング事業への進出】
・「LCA報告書」作成業務の代行や、カーボンオフセット(削減しきれない二酸化炭素に対する取り組み)につながるさまざまな提案の実施。
出典:建物のCO2排出量を見える化し、建設業界の脱炭素を目指す ~ソフトウェア「One Click LCA」 日本単独代理店契約を締結~|住友林業
活用事例2:安藤ハザマ
安藤ハザマは、脱炭素社会実現に向けた建設事業に関連する取り組みの1つとして、同社独身寮でLCAを実施。
また、CFP(カーボンフットプリント)認定を取得しました。
CFPとは、商品やサービスのライフサイクルを通して、排出される温室効果ガスの排出量を二酸化炭素に換算して、商品やサービスに分かりやすく表示する仕組みです。
CFP認定制度では、LCAに関する専門性をもった第三者が評価結果について検証することで、公平性と信頼性を担保できます。
LCAの手法論は「ISO14040/14044」に規格化されていますが、ISOに準拠したLCAの実施には、高い専門性が必要です。
しかし、安藤ハザマでは、LCA用インベントリ(一覧表)データベース「IDEA v2」と、LCA評価ツール(IDEA用)を活用。
そのため、高い専門性をもっていなくても、効率的にLCAを実施できる仕組みを確立しました。
効率的なLCAの仕組みによって、二酸化炭素以外のさまざまな環境負荷物質を合わせた、総合的な環境影響評価が可能です。
また同社は、LCA実施で重要な資材投入量について、積算数量内訳を把握。
把握した内訳を利用することで、当該建物で採用した「低炭素型PCa部材」による環境影響についても、詳しく評価しました。
出典:LCA手法を活用した、建築物の新たな環境影響評価 -設計・施工にて建設中の当社独身寮でカーボンフットプリント認定を取得-|安藤ハザマ
あとがき
建設業のLCA(ライフサイクルアセスメント)とは、「建物の一生」における環境負荷を評価する手法です。
LCAの評価手法を建設業に取り入れることは、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも重要です。
「環境問題に興味がある」「環境に配慮した建設を行いたい」という思いがある場合は、LCAの導入を検討してみてはいかがでしょうか。