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建設請負契約│その契約は適法?国交省ガイドラインに基づいた適法性チェックポイント一覧

建築コラム

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建設業法 請負

建設業法では、建設工事の受発注における建設工事請負契約の内容や取引方法などについて、詳細なルールを定めています。本記事では、建設工事に関するどのような契約および取引が違法になり得るのか、法令および国土交通省のガイドラインに沿って紹介します。

建設業法の規制内容

建設業法は、建設工事の発注者に対し、以下の事項を義務として定めています。ここでいう発注者にはいわゆる施主の他、元請人が下請人に下請工事を発注する場合、一次下請人が二次下請人に下請工事を発注する場合などを全て含みます。

e-Gov法令検索│建設業法
国土交通省│建設業法法令順守ガイドライン

見積りに必要な事項の提示等

建設工事の注文者は工事請負契約を締結する前に、次の二つの義務を負います(第20条3項)。

1,見積りに必要な事項の提示
注文者は建設工事請負契約を締結する前に、工事の受注者(または下請人など)に対し次の事項を提示する必要があります。国交省ガイドラインでは、これらの事項の提示は口頭ではなく、書面で行うべきと述べています。

① 工事名称
② 施工場所
③ 設計図書(数量等を含む)
④ 下請工事の責任施工範囲
⑤ 下請工事の工程及び下請工事を含む工事の全体工程
⑥ 見積条件及び他工種との関係部位、特殊部分に関する事項
⑦ 施工環境、施工制約に関する事項
⑧ 材料費、労働災害防止対策、産業廃棄物処理等に係る元請下請間の費用負担区分に関する事項

2,一定の見積り期間の設定
注文者は、見積りに必要な事項を提示した後、契約を締結する前に、受注者 (または下請人など) が見積りを行うための十分な期間を与えなければなりません。国交省ガイドラインによれば、ここで注文者が設定するべき具体的な期間は工事の請負予定金額によるとしています。

①工事1件の予定価格が 500 万円に満たない工事については、1日以上
②工事1件の予定価格が 500 万円以上 5,000 万円に満たない工事については、10日以上
➂工事1件の予定価格が 5,000 万円以上の工事については、15日以上

書面による契約締結

建設工事の請負契約の当事者は、工事に着工する前に、一定の内容を含んだ契約書を締結する必要があります (第19条第1項、第19条の3、第20条第1項) 。ここでいう一定の内容とは上記見積りに必要な事項の提示と同じです。また、追加工事や工期変更の場合も同様です(第19条第2項、第19条の3)。

著しく短い工期の禁止

注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結することはできません(第19条の5)。

ここで、通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間に当たるかどうかは、国交省が提示する『工期に関する基準』等を踏まえ、次の点などを総合的に考慮して個別に判断されます。

①その工期が、「工期基準」で示された内容を踏まえていないために短くなり、それによって、下請負人が違法な長時間労働などの不適正な状態で当該下請工事を施工することとなっていないか
②その工期が、過去の同種類似工事の工期と比して短い場合、工期が短くなることによって、下請負人が違法な長時間労働などの不適正な状態で当該下請工事を施工することとなっていないか
③その工期が、下請負人が見積書で示した工期と比較して短い場合、工期が短くなることによって、下請人が違法な長時間労働などの不適正な状態で当該下請工事を施工することとなっていないか

国土交通省│工期に関する基準
国土交通省│工期に関する基準 (参考事例集)

不当に低い発注金額・ 指値発注

注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結することはできません(第19条の3)。

注文者が 自己の取引上の地位を不当に利用したといえるかは、受注者(または下請人)の注文者(または元請人)への依存度や金額の決定方法(相互に十分な協議がなされたか)を考慮して個別に判断されます。注文者が受注者の大口顧客である場合(依存度が高い)や、注文者が金額を一方的に指定した場合(いわゆる指値発注 )は違法となるおそれがあります。

また、ここでいう「通常必要と認められる原価」とは、当該工事の施工地域において当該工事を施工するために一般的に必要と認められる価格(直接工事費、共通仮設費及び現場管理費よりなる間接工事費、一般管理費(利潤相当額は含まない。)の合計額)をいい、具体的には、下請負人の実行予算や下請負人による再下請先、資材業者等との取引状況、さらには当該地域の施工区域における同種工事の請負代金額の実例等により判断されます。

不当な使用資材等の購入強制

注文者(または元請人)は、請負契約の締結後、自己の取引上の地位を不当に利用して、 受注者(または下請人)に対し、その注文した建設工事に使用する資材、機械器具について自らが指定する商品を購入させ、または販売会社を指定し、請負人の利益を害することはできません(第19条の4)。

ここで資材などの指定が違法となり得るのは、 受注者の資材購入コストが予定よりも高くなる場合、あるいは既に購入していた資材のキャンセルにより金銭面及び信用面における損害を受ける場合、従来から継続的取引関係にあった販売店との取引関係が極度に悪化する場合など、 受注者が不利益を受ける場合に限られます。

やり直し工事

注文者(または元請人)が、注文者(または元請人)と受注者との責任及び費用負担を明確にしないままやり直し工事を受注者に行わせ、その費用を一方的に下請負人に負担させた場合は、違法となる可能性があります(第19条第2項、第19条の3、第28条第1項第2号)。

また、国交省ガイドラインでは、やり直し工事の費用負担について次のように明言しています。

①やり直し工事を受注者(または下請人)に依頼する場合は、やり直し工事が受注者の責めに帰すべき場合を除き、その費用は注文者(または元請人)が負担することが必要。
②受注者(または下請人)の責めに帰すべき理由がある場合とは、受注者の施工が契約書面に明示された内容と異なる場合又は下請負人の施工に瑕疵等がある場合(ただし、これらの原因が注文者(または元請人)にある場合を除く )。

下請代金の支払い

建設業法では、建設工事の下請代金の支払いにつき、次のようなルールを設けています。

①元請人が注文者から請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、下請人に対して、元請人が支払いを受けた金額の出来形に対する割合及び下請人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、支払いを受けた日から1月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない (第24条の3第2項 )
②元請人が特定建設業者であり下請人が一般建設業者(資本金額が 4,000 万円以上の法人であるものを除く。)である場合、発注者から工事代金の支払があるか否かにかかわらず、下請人が引渡しの申出を行った日から起算して50日以内で、かつ、できる限り短い期間内において期日を定め下請代金を支払わなければならない(第24条の6) 。

また、国交省ガイドラインでは下請代金の支払い方法につき、次のように述べています。

①できる限り現金によるものとし、少なくとも下請代金のうち労務費に相当する部分については、現金で支払うよう適切な配慮をすることが必要。
②下請代金を手形で支払う際には、現金化にかかる割引料等のコストや手形サイトに配慮をすることが必要(手形期間が120日を超える手形は違法となる可能性がある)。

赤伝処理

元請人が下請代金の支払時に諸経費などの名目で一部金額を差引くいわゆる赤伝処理は、次の条件を満たさない場合、違法となるおそれがあります(第18条、第19条、第19条の3、第20条第3項)。

①元請人と下請人双方の協議および合意
②赤伝処理の内容や差引額の算定根拠等を、見積条件・契約書面に明示すること
➂下請負人の過剰負担となることがないよう十分に配慮すること

不利益取扱いの禁止

元請人は、下請人が元請人の違反行為を国土交通大臣等、公正取引委員会又は中小企業庁長官に通報したことを理由に、請負金額の減額や取引停止などの不利益取扱いをすることはできません(第24条の5)。

まとめ

本記事では概要を紹介しましたが、国交省のガイドラインでは事例なども含め、適法・違法の判断基準をより具体的に解説しています。安全して取引を行うため、注文者の方も受注者の方もぜひ確認してみてください。

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