建設キャリアアップシステムとは、2019年4月より運用開始された建設業に携わる技能者の技能や資格や個人情報を一元管理するものです。技能者は情報が収められたICカードの提示により、自らの能力を事業者に伝えられます。また、各現場にICカードリーダーを置き、カードを読み込むことにより現場経験を蓄積していきます。
建設キャリアアップシステムの概要、目的とメリット、料金が値上げされた背景を解説します。
目次
建設キャリアアップシステムの概要
2019年4月より運用開始された「建設キャリアアップシステム」のことをご存知でしょうか?建設キャリアアップシステムの公式ホームページのインフォメーションでは下記のように説明されています。
建設キャリアアップシステムでは、一人ひとりの技能者がまちがいなく本人であることを確認したうえでシステムに登録し、IDが付与されたICカードを交付することが最初のスタートになります。ICカードが本人を証明する機能を担うことになります。
建設キャリアアップシステム|建設キャリアアップシステムの目的
つまり、技能者が本人証明に使えるICカードのことで、そこには「本人情報」「保有資格」「社会保険加入状況」等がまず登録されます。それだけではなく、現場にはICカードリーダーが用意されており、業務を行うたびに個人カードを読み取らせて就業履歴を蓄積することで、技能者の能力や適性を客観的に分かるようにするというものです。
カードは4色に色分けされており、技能者の評価基準は以下の4段階あります。
・Lv.1(白)
初級技能者(見習い技能者)
・Lv.2(青)
中堅技能者(一人前の技能者)
・Lv.3(銀)
職長として現場に従事できる技能者
・Lv.4(金)
高度なマネジメント能力を有する技能者(登録基幹技能者等)
技能者の能力は、経験(就業日数)、知識・技能(保有資格)、マネジメント能力(登録基幹技能者講習・職長経験)から判断されます。
まずは技能者と事業者共に登録してもらう必要があるので、国土交通省は「運用開始初年度で100万人の技能者の登録、5年で全ての技能者(330万人)の登録を目標とする」としています。
建設業に携わる方、すべてに関わる大きな出来事といえますが、どのような背景から建設キャリアアップシステムは生まれたのでしょうか?
建設キャリアアップシステムが生まれた背景と目的
建設キャリアアップシステムが必要とされたのには、以下のような建設業界独自の事情があります。
技能者の経験を正しく評価し、それを賃金に反映させるため
日本では就業者人数は減少傾向にありますが、建設業でも担い手となる若年層の確保が課題となっています。建設業では、賃金のピークが40歳前後となっており、技能者の経験や管理能力が正しく評価されていません。個々の現場経験を統一的なシステムで蓄積することは、スキルアップと処遇向上につなげられます。
また、建設業界では技能者が様々な職場を渡り歩き、キャリアを積んでいくことが多いので、企業ごとではなく、業界全体で統一のシステムが必要という事情もあります。
事業者の事務作業の効率化を図るため
ICカードに技能者の資格保有状況や社会保険加入状況が登録されるため、事業者の事務作業の効率化につながります。将来的には建設退職金共済事業部が管理する退職金の管理の統合も行う見込みです。
建設キャリアアップシステムのメリット
具体的に建設キャリアアップシステムによってもたらされるメリットは以下の通りです。
経験や技能が評価され、賃金アップにつながる
これまでは、技能者の経験や技能を客観的に評価することが難しく、だからこそ、キャリアを積み重ねてきた技能者なのに賃金が40代でピークになってしまうという状況がありました。建設キャリアアップシステムによって、建設業界が長く働き続け、キャリアアップしていける職場として労働者に選ばれるようになります。
スキルアップの目標が立てやすくなる
カードの色分けによって客観的に技能者が持つスキルが評価されるため、今後どのようにスキルアップしていけばいいのか目標が立てやすくなり、より優れた技能者が育ちやすくなります。
各種事務作業の軽減
社会保険加入状況の確認や技能者情報作製などが効率化されます。
建設キャリアアップシステムは何故2年足らずで値上げされたのか?
建設キャリアアップシステムは長い目で見れば建設業界全体にとってメリットは大きく、必要といえます。国も強く推し進めており、大手ゼネコンでも建設キャリアアップシステムの登録率100%を目指しています。そのため、いずれゼネコンの現場には登録無しでは入れない可能性もあるのです。
しかし、100万人を見込んでいたのに、2020年3月末時点では技能者登録数は22万人。4分の1にも達していません。国と現場の温度差は大きく、「建設キャリアアップシステムは失敗した」という声もあるほどです。
その状況に追い打ちをかけたのは、2020年10月からの以下のような大幅値上げです。
・事業者登録料 3,000円~120万円→6,000円→240万円
・ID利用料 2,400円/年→11,400円/年
・現場利用料 3円/1人日→10円/1人日
運用開始から2年も経たずに、事業者登録料は2倍に、ID利用料は4倍以上に、現場利用料は3倍以上の値上げとなりました。
さらに、従来の申請ではインターネット以外に窓口、郵送が可能でしたが、2020年10月からはインターネットに1本化されました。特に問題ない方も多いかもしれませんが、人によってはこれで申請のハードルが上がってしまっことたでしょう。
日本中の技能者と事業者が登録してこそ意味があるといえる建設キャリアアップシステム。料金を上げて、申請しにくくしては、ますます新規登録者が見込めなくなり、本末転倒のように思えます。
何故、このようなことが起こったかというと、建設キャリアアップシステムは運用開始直後から赤字運用に陥ったからです。その額は、2019年度末では累積約57億円、20年度末では100億円。年毎に2倍近くに膨れ上がっています。そのため、慌てて大幅値上げに踏み切ったということです。
あとがき
建設キャリアアップシステム自体は建設業界のために必要なもので、働く人もそれによって守られることになります。
しかし、その必要性を業界全体が正しく理解しているとは言い難いため、それが赤字運用につながったといえるでしょう。せっかく業界の将来のために作り上げたシステム。このまま登録者が増えずに今までかかったコストが無駄になってしまわないようにしてもらいたいものです。