建築基準法は、施主、建築士、実際に工事を行う建設業者など、建築にかかわる全ての人や企業にとって重要な法律です。違反すると厳しい罰則を受ける場合もあります。
しかし、建築基準法は全部で七章、条文にして百七条まである非常に膨大な法律です。また、法律の条文は情報を詰めすぎた結果、非常に読みにくい文章になっています。いくら建築基準法が重要な法律といっても、その全体を完璧に把握・理解するのは、現実には難しいでしょう。
本記事では、建設業者の立場から、「結局、自分は何をすれば良いの?」という疑問に答えるべく、建築基準法のなかから建設業者に関する規定だけを抜粋して紹介します。
目次
建築基準法とは
建築基準法とは、建物を建築する際や利用する際に守らなければならない最低限のルールを定めた法律です。具体的には、建物や市街地の安全を確保するための各種基準やそれらを守るための手続き、違反した場合の罰則などが定められています。
建築基準法の条文はインターネット上で公開されており、誰でも無料で閲覧することができます。
建設業者は、建築基準法でいうところの誰?
建築基準法には法律のいわば登場人物として、建築工事にかかわる様々な人や業者を表す言葉が出て来ます。
そして、建設業者は建築基準法の中では「工事施工者」と呼ばれます。つまり、建築基準法の中に「工事施工者は~」という言葉が出て来たら、それは何かしら建設業者に関することを定めた条文です。
第二条(用語の定義) この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
引用元: 建築基準法│e-Gov法令検索 (以下、引用元については同じ)
十八 工事施工者 建築物、その敷地若しくは第八十八条第一項から第三項までに規定する工作物に関する工事の請負人又は請負契約によらないで自らこれらの工事をする者をいう。
報告および調査・検査への協力(建築基準法第12条・第15条の2)
建築基準法は、工事施工者こと建設業者に対し、行政が行う調査・検査に協力し、必要な報告を行うことを求めています。
建物の適法性に関する報告
建築基準法12条5項は「特定行政庁、建築主事又は建築監視員は、次に掲げる者に対して、建築物の敷地、構造、建築設備もしくは用途又は建築物に関する工事の計画もしくは施工の状況に関する報告を求めることができる」とし、この「次に掲げる者」には工事施工者こと建設業者も含まれます。
第十二条(報告、検査等)
5 特定行政庁、建築主事又は建築監視員は、次に掲げる者に対して、建築物の敷地、構造、建築設備若しくは用途、建築材料若しくは建築設備その他の建築物の部分(以下「建築材料等」という。)の受取若しくは引渡しの状況、建築物に関する工事の計画若しくは施工の状況又は建築物の敷地、構造若しくは建築設備に関する調査(以下「建築物に関する調査」という。)の状況に関する報告を求めることができる。
一 建築物若しくは建築物の(中略)工事施工者又は建築物に関する調査をした者
建築基準法12条5項の報告を求められるのは、主に建物の増改築を行う場合です。この報告が不十分だと、対象の建物が違法な状態にあると推定され、工事を進められない可能性が出て来ます。
書類の提出および立ち入り調査
建築基準法第12条第6項は、特定行政庁又は建築主事が工事施工者こと建設業者に対し、調査に必要な書類の提出を求めることができると定めています。
また、建築基準法12条7項は、調査のため、建築主事又は特定行政庁の命令若しくは建築主事の委任を受けた市町村の職員もしくは都道府県の職員が、建設現場などに立ち入り、建設業者に対し直接質問することを認めています。
第十二条(報告、検査等)
6 特定行政庁又は建築主事にあつては第六条第四項、第六条の二第六項、第七条第四項、第七条の三第四項、第九条第一項、第十項若しくは第十三項、第十条第一項から第三項まで、前条第一項又は第九十条の二第一項の規定の施行に必要な限度において、建築監視員にあつては第九条第十項の規定の施行に必要な限度において、当該建築物若しくは建築物の(中略)工事施工者又は建築物に関する調査をした者に対し、帳簿、書類その他の物件の提出を求めることができる。
7 建築主事又は特定行政庁の命令若しくは建築主事の委任を受けた当該市町村若しくは都道府県の職員にあつては第六条第四項、第六条の二第六項、第七条第四項、第七条の三第四項、第九条第一項、第十項若しくは第十三項、第十条第一項から第三項まで、前条第一項又は第九十条の二第一項の規定の施行に必要な限度において、建築監視員にあつては第九条第十項の規定の施行に必要な限度において(中略)、工事監理者、工事施工者若しくは建築物に関する調査をした者に対し必要な事項について質問することができる。(後略)
ここでいう調査とは、建築確認や完了検査、およびそれらの結果の適否の判断に関するもの、また、建築物の適法性や安全性に関するものを指します。
建築基準法の目的全体に関する調査・報告
建築基準法第15条の2も、前述した第12条と同じく、工事施工者こと建設業者に対し、調査に必要な報告、書類の提出、立ち入り調査への対応などを求めています。
第12条と違うのは、調査の要否を判断するのが国土交通大臣である点と、調査の目的がもっと包括的に「第一条の目的を達成するため特に必要があると認めるとき」とされている点です。ここでいう「第一条の目的」とは、建築基準法そのものの目的である国民の生命、健康、財産と保護と公共の福祉を指します。
罰則を伴う禁止事項(建築基準法第98条~101条)
建築基準法第98条~101条は、各建築関係者が建築基準法に違反した場合に受ける罰則について規定しています。ここを確認することで、建設業者が何を法律で禁止されているのかがわかります。
設計図書に従わないで工事をすること
建築基準法第98条は、建設業者が「設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した」ために建築物や建築設備が違法な状態になった場合、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処することとしています。
建築確認済証の交付を受けずに工事をすること
建築基準法 第6条第8項は、建築確認済証の交付のない工事を禁止しています。
そして、建築基準法99条は、第6条第8項に違反し建築確認済証の交付のない工事を行った建設業者に対し、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金を科しています。
設計士の設計によらない建築物の工事
建築基準法第5条の6は、建築士法で定めた建築士の設計によらない建築物の工事、および法定の工事監理者を置かない工事を禁止しています。
建築基準法第101条は、建築基準法第5条の6に違反し法定の設計士の設計によらない建築物の工事をした建設業者に対し、百万円以下の罰金を科しています。
まとめ
建築基準法が建設業者に要求することは、主に以下の三つです。
①行政による調査・報告への協力
②設計図書を守って工事を行うこと
➂施工する工事が、建築確認や建築士による設計など適法な手続きにのっとっているかを確認すること
これらに応えるには、現場の状況の適切な把握と、情報の共有および管理が重要です。そのためには、現場とこまめに連絡を取る他、工事の進捗や現場の情報を管理・共有するシステムを活用するのも一つです。