建設工事の現場作業には危険がつきものです。
工事に携わる会社や作業員は、事故や災害が発生しないよう、安全に作業できる環境の整備を心がけなければなりません。
「工事安全衛生計画書」は、作業現場で発生する事故や災害のリスクを抑えるのに役立つ労務安全書類(グリーンファイル)です。
どれだけ細心の注意を払っても、工事中の事故や災害が発生する可能性をゼロにはできません。
しかし、「工事安全衛生計画書」の内容をすべての作業員が把握して安全意識を高めれば、重大な事故や怪我から工事に関係する人々を守ることにつながります。
そこで今回は、「工事安全衛生計画書」の概要や、混同しやすい「安全衛生計画書」との違い、項目ごとの書き方について分かりやすく解説します。
記入例も交えながら説明するため、ぜひ書類作りの参考にしてください。
目次
「工事安全衛生計画書」とは
「工事安全衛生計画書」とは、工事を安全に進めていくための方針や目標を書き込む書類で、労務安全書類(グリーンファイル)の1つです。
また、作業において予想される危険性・有害性を特定し、事故や災害の発生を抑えるための対策も検討して記載します。
なお「工事安全衛生計画書」の作成後は、元請け会社へ提出します。
「工事安全衛生計画書」と「安全衛生計画書」の違いは?
実は、「工事安全衛生計画書」とよく似た名称の書類があります。
その名も「安全衛生計画書」です。
「工事安全衛生計画書」と「安全衛生計画書」は名称だけではなく、記入する一部の情報が同じという点でも類似しています。
では反対に「工事安全衛生計画書」と「安全衛生計画書」の異なる部分とは、いったいどこなのでしょうか?
2つの書類の異なる点は、使われているフォーマット(様式)です。
「工事安全衛生計画書」・・・全建統一様式というフォーマット(様式)
「安全衛生計画書」・・・・・参考様式というフォーマット(様式)
全建統一様式とは、建設現場での災害防止などを目的とした法令を守るために、最低限必要な情報を文書でまとめられるよう、全国建設業協会が定めたものです。
一方、参考様式は、必要に応じて全建統一様式を補うために使用されます。
この記事では、参考様式を使用した「安全衛生計画書」ではなく、全建統一様式を使用した「工事安全衛生計画書」の書き方について解説します。
「工事安全衛生計画書」のフォーマット(様式)
「工事安全衛生計画書」のフォーマット(様式)は、「全建統一様式第6号」です。
縦長の用紙に大きな字で「工事安全衛生計画書」と記載されているものを使用して書類を作ります。
元請け会社がオリジナルのフォーマット(様式)を用意していることもありますが、記入が必要な内容はほぼ同じです。
「工事安全衛生計画書」の書き方を項目ごとに解説
「工事安全衛生計画書」の記入方法を、欄外部分(前付け)と独自項目部分に分けて詳しく解説します。
ここでは、実務で幅広く利用されている「全建統一様式第6号」を定型として説明します。
他の書式でも記入項目はほとんど変わらないため、「全建統一様式第6号」以外のフォーマット(様式)を使う場合でも、安心してご参照ください。
「工事安全衛生計画書」欄外部分(前付け)の書き方
・事業所の名称
工事現場の名称を記入します。
例えば、「〇△新築工事」「△△作業所」「〇〇ビル改修工事」などと記載しましょう。
・所長名
この欄の「所長」は、元請け会社の現場代理人のことです。
元請け会社へ確認し、該当する人物の氏名を記入しましょう。
・会社名
自社の名称を記入しましょう。
・現場代理人(現場責任者)
自社所属の現場代理人、または現場責任者の氏名を記入します。
フォーマット(様式)に「印」と記載されている部分への捺印を、忘れないようご注意ください。
・日付記入部分
「工事安全衛生計画書」の作成日を記入します。
年の記入は西暦でも問題ありませんが、和暦での表記が一般的です。
「工事安全衛生計画書」独自項目部分の書き方
・工事安全衛生方針
工事現場の安全衛生を確保するために必要な、施工する工事の安全衛生に関する基本的な考え方を記載します。
・工事安全衛生目標
工事安全衛生方針に沿った、安全衛生確保を達成するために必要な工事現場での具体的な取り組みを書き込みます。
どれくらいの水準まで取り組めば安全衛生の確保が期待できるか、詳しい数値などを含めて目標を設定します。
【記入の例】
・2m以上の高所での作業時、安全帯使用率100%
・作業所内でのヘルメット着用の徹底
・工種・工種別工事期間
まず、「工種」の列には作業する工事の作業内容(例:「鉄筋組立工事」「足場組立工事」など)を記載します。
「工種別工事期間」のすぐ下の行には、作業の施工期間を書き込みましょう。
そして、「工種」の列に記入した作業内容の施工期間を、「←→」で表示してください。
・日常の安全衛生活動
施工期間中、日常的に実施する安全衛生活動について、箇条書きで記入します。
安全衛生に関する行事や安全施工サイクルなどの名目で、活動ごとに実施予定日や強化月間を設けて、継続しやすい計画を立てるケースもあります。
【記入の例】
・安全大会・・・・・・毎月1日
・本社パトロール・・・毎月1回
・安全衛生ミーティング
・資機材・保護具・資格の区分/その種類
工事に使用する資機材・保護具・資格について、主要なものを記入しましょう。
【記入の例】
「主な使用機械設備」
…移動式クレーン、積載型トラッククレーン
「主な使用機器・工具」
…ハンマ、ラチェット、玉掛けワイヤーロープ
「主な使用資材枠」
…型枠用合板、単管、サポート
「使用保護具」
…保護帽、安全帯、安全靴、手袋( 軍手・革)
「有資格者・配置予定者」
…移動式クレーン運転免許者、玉掛技能講習修了者、型枠支保工作業主任者、合図者
・1. 危険性又は有害性の特定
工事を施工するうえで、予想される危険性または有害要因を特定します。
「作業区分」には、危険性が予測される作業名を記入します。
「予測される災害(危険性又は有害性) 」には、作業区分に記した作業において、発生が予想される事故や災害を書き込みましょう。
【記入の例】
「作業区分」
・移動式クレーンの設置
・移動式クレーン作業
「予測される災害(危険性又は有害性) 」
・クレーンの設置場所の地盤状態が悪く、クレーンが転倒する。
・ブームが高圧線に接近しすぎ、または接触して玉掛け者等が感電に巻き込まれる。
・2. リスクの見積り
「1. 危険性又は有害性の特定」で特定した、予測される災害に対してリスクを見積もり、リスクレベル(優先度)を判定します。
各評価項目は次のような仕組みになっています。
「可能性(度合)」
予測される災害の発生可能性を1~3の数値で評価します。
数値の内容は、「1:ほとんどない」「2:可能性がある」「3:極めて高い」の3段階です。
「重大性 (重篤度)」
予測される災害の重大性を1~3の数値で評価します。
数値の内容は、「1:軽微(不休災害)」「2:重大(休業災害)」「3:極めて重大(死亡・障害)」の3段階です。
「見積り」
「可能性(度合)」と「重大性 (重篤度)」で評価した数値を合計した数を表記します。
合計した数が大きいほど、災害の危険性や有害性が高いといえます。
評価基準は以下の通りです。
2:問題は少ない
3:多少問題がある
4:かなり問題がある
5:重大な問題がある
6:ただちに解決すべき問題がある
「リスクレベル」
「見積り」で評価した数値をもとに、予測される災害への対策優先度を1~5の数値で表します。
見積りの数値とリスクレベルの数値の対応は、以下の通りです。
見積り2・・・リスクレベル1(対策の必要なし)
見積り3・・・リスクレベル2(現時点では必要なし)
見積り4・・・リスクレベル3(何らかの対策が必要)
見積り5・・・リスクレベル4(抜本的な対策が必要)
見積り6・・・リスクレベル5(即座に対策が必要)
・3. リスク低減措置内容の検討
「2. リスクの見積り」で判定したリスクレベルにもとづいて、予測される災害の発生可能性を減らすための具体的な行動を記載します。
リスク対策に投入できる経営資源には限りがあります。
そのため、リスクレベルの高いところから重点的に低減措置を講じていきましょう。
・職名・氏名
各種役職や責任者の職名と、担当している人物の氏名を記入します。
・再下請会社の関係者の職名・氏名・会社名等
再下請け会社がある場合には、各再下請け会社に所属する工事関係者の職名・氏名・再下請会社名を記入します。
なお、再下請け会社名の「次」の前には、二次請けの場合は「二」を、三次請けの場合は「三」を書き入れましょう。
・元請工事業者提出書類一覧
自社が元請け会社に提出する書類をすべてチェックしましょう。
「工事安全衛生計画書」の他にも元請け会社へ提出する安全書類がある場合は、該当する書類名にチェックを入れます。
あとがき
今回は、「工事安全衛生計画書」の概要や類似書類との違い、項目ごとの書き方について解説しました。
作業中の災害や事故の発生を防ぐためにも、工事に携わるすべての人たちが安全衛生を考えることはとても大切です。
「工事安全衛生計画書」は、現場で気をつけるべき事項を共有するツールとして役立ちます。
元請け会社への提出書類としてだけではなく、安全衛生の実用的なガイドラインとして活用できる計画書を、作業現場の実情を想定しながら作り込みましょう。
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