建設工事に取り掛かるためには、人員や機材だけでなく各種書類の準備もしなければなりません。
ほかの業者と下請負契約を結ぶ際に必要となるのが、今回のテーマである「再下請負通知書」です。
建設工事に関わる数ある書類のうち、この再下請負通知書の作成には、とりわけ手間がかかります。
「記入項目の多さに圧倒された!」という方もいるのではないでしょうか。
しかし、書き方や項目ごとの条件などのポイントをしっかりと押さえられれば、恐れることはありません。
この記事では、再下請負通知書の書き方について、記入例を交えながら詳細に解説しています。
最後まで読んで書類作成に臨めば、難しく感じていた再下請負通知書も、スムーズに仕上げることができるでしょう。ぜひご一読ください。
目次
再下請負通知書とは
再下請負通知書とは、一次下請負以下の業者が、ほかの業者へさらに下請負契約を結ぶときに作成する安全書類(グリーンファイル)のひとつです。
元請負業者は、現場の組織関係を理解し、管理するためにこの通知書を利用します。
ひとつの業者だけで完成する工事は、めったにありません。
ほとんどの工事で、自社で対応できない作業があるときは、ほかの業者と下請負契約を結びます。
規模の大きい現場になるほど下請負契約の数は増加し、管理が困難になります。
そこで、工事に参加している業者どうしの関係を明らかにするために、再下請負通知書が作成されるのです。
新しい下請負契約が交わされるとすぐに、再下請負契約をお願いする業者は、再下請負通知書を作成します。
以降この記事では、再下請負契約をお願いする業者を「再下請負通知人」、再下請負契約を受ける業者を「再下請負人」と表します。
作成された再下請負通知書類は一次下請負業者が回収して、元請負業者へ提出するのが一般的です。
書類の作成後については、後半の「再下請負通知書を書いた後はどうなる?」のセクションで詳しくご説明します。
再下請負通知書の書き方
作成する再下請負通知書の形式は、元請負の会社が指定する場合が一般的です。
決められたフォーマットはないものの、法律で記載が定められている項目があります。
再下請負通知書は基本的に「欄外部分(前付)」、「自社に関する事項」、「再下請負人関係」の3部構成です。順番に見ていきましょう。
なお、この記事では国土交通省のホームページからダウンロードできる「再下請負通知書(作成例)」をもとに説明しています。
ほかの書式を使ってつくる場合でも、記入項目はほとんど変わりません。安心してこの記事をご参照ください。
1. 欄外部分(前付け)の項目の書き方
再下請負通知書を開いてまず目に入ってくるのが欄外部分(前付け)です。
ビジネス文書とは少し異なりますが、書類作成日や関係者の名称などの事項を記載します。
具体的に次の4点が、再下請負通知書の欄外部分(前付け)の項目です。
1.日付
2.直近上位注文者名
3.元請名称・事業者ID
4.報告者下請負業者
1-1. 日付
再下請負通知書の作成日を記入します。年は西暦で示してもかまいませんが、和暦での記載が一般的です。
1-2. 直近上位注文者名
直近上位の業者名を書く欄です。「直近上位」、つまり再下請負通知人に建設工事を依頼してきた業者の名称を記しましょう。
たとえば、再下請負通知人が一次下請負のケースでは、この欄に元請負業者の名前を記入します。
一方、再下請負通知人が二次下請負や三次下請負の場合、この欄には自社へ工事を依頼してきた業者(一次下請負や二次下請負)の名前を書き入れます。
1-3. 元請名称・事業者ID
元請負業者の名称と事業者IDを書く欄です。
事業者IDは、建設キャリアアップシステムに元請負業者が登録している場合に、割り振られます。元請負業者が事業者IDをもっていないときは記入しません。
建設キャリアアップシステムとは、建設業に携わる技能者のスキルや資格をはじめとした個人情報を一元管理する仕組みです。
詳しくはこちらの記事をご確認ください。
建設キャリアアップシステムとは?概要とメリット、料金値上げの真相を解説
1-4. 報告下請負業者
「報告下請負業者」とは、この通知書の作成者、すなわち再下請負通知人です。
この欄には、再下請負通知人の「住所」「会社名・事業者ID」「代表者名」を記入していきます。
なお、元請名称・事業者IDの項目の場合と同じように、建設キャリアアップシステムに再下請負通知人が登録していない場合、事業者IDの記載は不要です。
2. ≪自社に関する事項≫の項目の書き方
≪自社に関する事項≫には、再下請負通知人である自社の情報を記載していきます。
項目が多くて大変ですが、漏れのないように注意して書き込みましょう。
ひとつひとつ順番に説明していきます。
2-1. 工事名称及び工事内容
再下請負通知人が直近上位注文者から請け負った、建設工事の名前と具体的な内容を記入します。
例)◯◯ビル新築工事 / 鉄筋工事
2-2. 工期
再下請負通知人が請け負っている建設工事の施工期間です。
直近上位の注文者と交わした契約書に記載されている期間を記入します。
「自」に開始日、「至」に工事完了予定日を書き入れましょう。
2-3. 注文者との契約日
直近上位の注文者と再下請負通知人が下請負契約を交わした日付を記入します。
直近上位の注文者との契約書に記載されている契約日を書き入れましょう。
2-4. 建設業の許可 (施工に必要な許可業種 、許可番号 、許可(更新)年月日)
建設業の許可は、建設工事が健全に施工されるために国が定めているルールです。
建設業の29業種のなかで、今回の工事に必要で、なおかつ自社が許可を受けている業種を記入します。
再下請負通知書では建設業の許可について、次の3項目に関する記載が必要です。
「施工に必要な許可業種」
再下請通知人が許可を受けている業種のうち、「2-1. 工事名称及び工事内容」の建設工事を施工するために必要な許可業種を記入します。
「許可番号」
国土交通大臣許可の場合は「大臣」の文字を、都道府県知事許可の場合は「知事」の文字を◯で囲みます。
また、特定許可の場合は「特定」の文字を、一般許可の場合は「一般」の文字を◯で囲みます。
「許可(更新)年月日」
建設業の許可を受けた(更新した)日付を記入します。
建設業の許可について詳しく知りたい方には、こちらの記事がおすすめです。
2-5. 健康保険等の加入状況
各種保険の加入状況と、事業所整理記号や事業所番号などを記入する項目です。
2-5-1. 保険加入の有無
各保険の適用を受ける営業所について、届出の状況に応じて、「加入・未加入・適用除外」のどれかを◯で囲みます。
「加入」・・・・・保険の加入を届け出ている場合
「未加入」・・・・保険の加入を届け出ていない場合
「適用除外」・・・従業員の規模などの理由で各保険の適用が除外されるとき
なお、保険の適用を受ける営業所が複数あるとき、その一部だけでも届出をおこなっていない場合は「未加入」としてください。
2-5-2. 事業所整理記号等
こちらの項目には、次の内容を記入しましょう。
営業所の名称
請負契約に関係している営業所の名称を記入
健康保険
事業所整理記号および事業所番号を記入
健康保険組合に加入している場合は組合名を記入
一括適用の承認にかかわる営業所の場合は、主たる営業所の整理記号及び事業所番号を記入
厚生年金保険
事業所整理記号および事業所番号を記入
一括適用の承認にかかわる営業所の場合は、主たる営業所の整理記号及び事業所番号を記入
雇用保険
労働保険番号もしくは雇用保険適用事業所番号を記入
継続事業の一括の認可にかかわる営業所の場合は、主たる営業所の番号を記入
2-6. 監督員名 (権限及び意見申出方法)
監督員は現場に設置されない場合もあります。監督員がいない場合は、この項目への記入を省略できます。
監督員名の欄には、担当者の氏名を記入してください。
また「権限及び申出方法」の欄には、施工する建設工事に関して、下請負業者と意見交換するときの連絡方法を書きます。書き込む内容は、下請負契約書にある記載を参照することが多くなっています。
たとえば、「権限及び申出方法」の欄には次のように記入するとよいでしょう。
例)基本契約約款記載のとおり。口頭及び文書による
2-7. 現場代理人名 (権限及び意見申出方法)
現場代理人も監督員と同様、現場へ設置されない場合があります。現場代理人がいない場合は、この項目への記入を省略できます。
現場代理人名には、担当者の氏名を記入してください。
また「権限及び申出方法」の欄には、施工する建設工事に関して、直近上位の注文者と意見交換するときの連絡方法を書きます。書き込む内容は、下請負契約書にある記載を参照するケースが一般的です。
たとえば、「権限及び申出方法」の欄には次のように記入します。
例)基本契約約款記載のとおり。口頭及び文書による
2-8. 主任技術者名 (資格内容)
建設工事の管理には、豊富な実務経験と知識をもつ人の存在が欠かせません。
そのため、技術面で建設工事を管理できる資格をもつ主任技術者を、再下請負通知人は設置します。
主任技術者名欄には、「専任」「非専任」のどちらかを◯で囲み、担当する技術者の氏名を記入します。
「専任」と「非専任」の指定は、請け負う工事の金額によって変わります。
公共性のある重要な工事で、元請負業者との契約額が3,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上の場合は「専任」を、それ以外は「非専任」を選択しましょう。
資格内容には、主任技術者がもっている資格を記入します。
主任技術者の資格を得るためには、「学歴・実務経験年数に基づく要件」もしくは、「1級および2級国家資格の取得と実務経験年数」のいずれかを満たさなければなりません。
「資格内容」の欄の記入例をいくつかご紹介します。
例)
・10年以上の実務経験
・二級建築施工管理技士(建築)
・第一種電気主任技術者(電気事業)
・二級土木施工管理技士(土木)
2-9. 安全衛生責任者名
「安全衛生責任者名」の欄には、選任された人の名前を記入しましょう。
労働安全衛生法が目的としている「労働者の安全と健康確保」を達成するために、安全衛生責任者は設置されます。
選任するにあたって必要となる資格はありませんが、現場に常駐する人物から任命します。
なかでも、職長と安全衛生責任者を兼任するケースが一般的です。
2-10. 安全衛生推進者名
「安全衛生推進者名」の欄にも、選任された人の名前を記入します。
安全衛生推進者名は、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業所において、設置が義務づけられている役職です。
現場に常駐していない人物でも任命することができ、安全衛生責任者との兼務も可能です。
兼務する場合は、安全衛生責任者名欄と安全衛生推進者名欄の両方に同じ人の名前を書きます。
2-11. 雇用管理責任者名
雇用管理責任者の名前を記入する欄です。雇用管理責任者は、現場労働者の労務管理を担う人のことを指します。
建設業では、この役職の任命は法律で義務づけられています。雇用管理責任者に必要な資格や条件はありません。
一般的に、労務管理を行える人を任命します。
2-12. 専門技術者名 (資格内容、担当工事内容)
再下請負通知人が工事を担当するとき、その一部で、建設業の許可を受けていない業種の専門工事を必要とする場合があります。
通常、建設業の許可を受けていない業種の工事には取り掛かれません。
しかし、必要な技能や実績を持つ専門技術者に技術上の管理を任せることで、許可を受けていない部分の工事でも、再下請負通知人が施行できるようになります。
専門技術者名の項目のうち、「資格内容」には、専門技術者が所有する資格名や実務経験を記入します。
また、「担当工事内容」には、専門技術者が担当する工事について具体的に書き込みます。
2-13. 一号特定技能外国人の従事の状況(有無)
再下請負通知人における、建設分野一号特定技能外国人の雇用状況に応じて、「有」「無」のどちらかを◯で囲みます。
国の定めた特定業務に従事できる程度の、知識・技能・日本語能力があると認められた外国人就労者に与えられる在留資格が、一号特定技能外国人です。
一号特定技能外国人の従事の状況の欄は、この在留資格を持っている外国人が現場で働いているかについて確認するためにあります。
2-14. 外国人建設就労者の従事の状況(有無)
外国人建設就労者の従事の状況の欄は、再下請負通知人における外国人建設就労者の雇用状況に応じて、「有」「無」のどちらかを◯で囲みます。
外国人建設就労者とは、以下の2つの条件のどちらかに当てはまる外国人のことをいいます。
- 建設分野の技能実習修了後、ひきつづき日本国内に在留する人
- 建設分野の技能実習修了後、いったん本国へ帰国し、その後に日本へ再入国する人
「有」を〇で囲んだ場合には、「外国人建設就労者建設現場入場届出書」も提出する必要が出てきます。
この書類の書き方についてはこちらの記事で詳しくお伝えしています。
2-15. 外国人技能実習生の従事の状況(有無)
外国人技能実習生は、日本で技能を習得して母国へ戻る外国人建設就労者です。
再下請負通知人における、外国人技能実習生の雇用状況に応じて、「有」「無」のどちらかを◯で囲みましょう。
3. ≪再下請負関係≫の項目の書き方
再下請負通知書の右側は、再下請負通知人から新たに下請契約を受注する業者、すなわち再下請負人に関する情報を記入していきます。
基本的には、≪自社に関する事項≫と書き方は同じです。
ただし、注意点がひとつあります。 ≪再下請負関係≫の「工事名称及び工事内容」の欄には、≪自社に関する事項≫の「2-1. 工事名称及び工事内容」に記入した工事内容より、さらに具体的な作業を書きましょう。
たとえば、次のように記入します。
例) ○○ビル新築工事 / 鉄筋設置時の重量物揚重運搬配置工事
再下請負通知書を書いた後はどうなる?
再下請負通知書の作成後はどうなるのでしょうか。
二次以下の会社の再下請負通知書はすべて、一次の会社によって集められます。
一次の会社は、回収した再下請負通知書に基づいて「下請負業者編成表」を作成し、元請業者に提出します。
なお、この「下請負業者編成表」については、こちらで詳しく解説していますのでご参照ください。
あとがき
この記事では、再下請負通知書の書き方について詳しくお伝えしてきました。
実際に作成するときには、自社(再下請負通知人)と再下請負人、どちらの情報を記入しているのか混同してしまわないよう、注意しながら作成しましょう。
ひとたび書類を仕上げることができれば、次回以降に同じ会社と下請負契約を結んだ際には、少しの修正や加筆だけで転用できるようになります。
情報をよく確認し、この記事を参考にしながら、再下請負通知書の作成に取り組んでください。