「はたらく乗り物」として子どもたちにも親しまれている、ショベルカーやクレーンなどの重機。
人間の力だけでは行えない作業も可能にしてくれる、建設工事には欠かせない存在です。
しかし、適切・安全に使わなければ、重機が事故やトラブルを引き起こしてしまうこともありえます。
重機による事故を防ぐために作成するのが、労務安全書類(グリーンファイル)の1つである「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」です。
この記事では「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の書き方について、項目ごとに分かりやすく説明します。
また、「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」を作成した後についても解説しますので、ぜひ最後まで読んで書類作成の参考にしてください。
ここでは、一般的に広く採用されている「全建統一様式第9号」をフォーマットとして「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の書き方をお伝えしていきます。
他の書式でも記入項目はほとんど同じです。
そのため、「全建統一様式第9号」以外をフォーマットとして「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」を作る場合でも、安心してご参照ください。
目次
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」とは
労務安全書類(グリーンファイル)の1つである「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」は、建設工事で機械を使う会社が、元請の会社に提出する書類です。
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」で使用される「機械」という用語に該当するのは、ショベルカーやブルドーザー、移動式クレーンや高所作業車などです。
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」を作成する目的は、重機による事故を防いだり、使用状況を管理したりすること。
この「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」によって、重機の車種や使用期間、使用場所、運転者、検査状況などをデータ化し、重機を使う上での安全性を証明することができます。
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の書き方
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の書き方についてお伝えします。
先にもお伝えした通り、ここでは「全建統一様式第9号」をフォーマットとして解説します。
基本的には下記の記入方法で問題ありませんが、元請会社から別に指示があった場合には、そちらに従ってください。
例えば、「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」はA3サイズで提出するのが一般的ですが、元請会社の意向でA4サイズの用紙2枚で作成するケースもあるでしょう。
書類作成前に元請会社へ確認してください。
また、「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」は大きく分けると以下の3つのパートで構成されています。
・欄外部分(前付け)
・欄内部分
・持込時の点検表
それぞれの項目について1つずつ見ていきましょう。
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」欄外部分(前付け)の書き方
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の欄外部分(前付け)には、工事の概要と関係会社について記入します。
・日付の記入部分
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の提出日を記入します。
年の記入は西暦でもかまいませんが、和暦での表記が一般的です。
・書類名
書類名として、用紙の上部中央に「(移動式クレーン / 車両系建設機械 等)使用届」という文言が大きく記載されています。
工事に使用する機械が該当するのが、移動式クレーンまたは車両系建設機械のどちらなのかを確認しましょう。
その上で、該当する方を〇(まる)で囲み、もう片方には取り消し線(二重線)を引いてください。
・作業所名
工事の名称や工事現場の作業所を記入します。例えば以下のように書くとよいでしょう。
・Aビル改修工事
・B新築工事
・C作業所
・作業所長
その工事における元請の現場代理人の氏名を記入しましょう。
一次会社ではなく、元請会社の現場代理人を記載するという点に注意しましょう。
・一次会社名
一次下請負の会社名を書きましょう。
自社が一次下請負の会社であれば、自社名を記入します。
・持込会社名
機械を持ち込む会社名を記入します。
同時に、「( 次)」と書かれた空欄には、持込会社が何次の下請負業者にあたるのかを数字で書きましょう。
一次下請負の会社が持ち込む場合には、前項の「一次会社名」に書いた会社名と同じになります。
・代表者名
持込会社の代表者名を記入します。現場代理人や現場責任者でもかまいません。
・電話
持込会社の電話番号を記入しましょう。
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」欄内部分の書き方
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の欄内部分には、使用する機械について記入します。
各項目の書き方を順番に解説します。
・使用会社名
ここには、機械を使用する会社名を記入します。
例えば、機械を持ち込むのが二次下請負会社、機械を使用するのが三次下請負会社であるケースでは、この項目に書くのは「三次下請負業者」となります。
少し込み入っているので注意しましょう。
・代表者名
機械を使用する会社の代表者名を記入します。機械の使用会社の現場代理人でもかまいません。
・機械
持ち込む機械についての情報を記入します。
【名称】
持ち込む機械の名称を記入します。
機械の名称は、「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の「持込時の点検表」に記載されている「機械名」を参考にしてください。
「持込時の点検表」に記載されている「機械名」は下記の通りです。
・クレーン
・移動式クレーン
・デリック
・エレベーター
・建設用リフト
・高所作業者
・ゴンドラ
・ブル・ドーザー
・モーター・グレーダー
・トラクターショベル
・ずり積機
・スクレーパー
・スクレープ・ドーザー
・パワー・ショベル
・ドラグ・ショベル(油圧ショベル)
・ドラグライン
・クラムシェル
・バケット掘削機
・トレンチャー
・コンクリート圧砕機
・くい打機
・くい抜機
・アース・ドリル
・リバース・サーキュレーション・ドリル
・せん孔機
・アース・オーガー
・ペーパー・ドレーン・マシン
・地下連続壁施工機械
・ローラー
・クローラドリル
・ドリルジャンボ
・ロードヘッダー
・アスファルトフィニッシャー
・スタビライザ
・ロードプレーナ
・ロードカッター
・コンクリート吹付機
・ボーリングマシン
・ブレーカ
・鉄骨切断機
・解体用つかみ機
・重ダンプトラック
・ダンプトラック
・トラックミキサー
・散水車
・不整地運搬車
・コンクリートポンプ車
・その他
【メーカー】
持ち込む機械のメーカーを記します。
【規格・性能】
該当の機械の規格や性能を記載します。
基本的に機械の重さや長さを書きますが、その他に特記した方がよい点があれば記入しておいてください。
同じ名称の機械でも、規格や性能は機械それぞれで異なっているという点を意識するとよいでしょう。
【製造年】
該当の機械の製造年を記入しましょう。
【管理番号(整理番号)】
持込会社の管理番号(整理番号)を記入します。
・持込年月日
該当の機械を工事現場に持ち込む年月日を記入しましょう。
・搬出予定年月日
該当の機械を工事現場から搬出する年月日を記入してください。
・使用場所
該当の機械を使う場所を記入します。
住所ではなく、どういった現場なのかを書きます。
例えば、「型枠組立現場」などと記入するとよいでしょう。
・自社・リースの区別
該当の機械が自社のものか、それともリースなのかを問う項目です。
該当する方を〇(まる)で囲みましょう。
・運転者(取扱者)
該当の機械を運転する人の氏名と、その人の保有する免許や資格を記載します。
この「資格の種類」欄には、該当の機械の運転に必要となる免許・資格のみを書きましょう。
関係のない免許や資格を記入する必要はありません。
また、運転者が2人以上いる場合は、代表者の氏名の右側に(正)、それ以外の運転者の氏名の右側には(副)と書きましょう。
・自主検査有効期限
【定期】…移動式クレーンの場合
定期自主検査の年次・月次の有効期限を書きましょう。
この項目には、工事期間内に有効期限が切れないことの証明という意図があります。
なお定期自主検査とは、建設機械や荷役運搬機械、高所作業車について定期的・自主的に実施する必要のある検査を指し、労働安全衛生法によって定められています。
【特定】…車両系建設機械の場合
特定自主検査の有効期限を書きましょう。
特定自主検査とは、前述の定期自主検査をしなければならない車両の中で、以下の機械についての一定資格を持つ検査者から受ける検査のことをいいます。
・車両系建設機械
・荷役運搬機械
・不整地運搬車
・高所作業車
・動力プレス
・移動式クレーン等の性能検査有効期限
持ち込む機械が移動式クレーンの場合は、性能検査の有効期限を記入しましょう。
吊り上荷重3トン以上の移動式クレーンは、原則2年に1回の性能検査を受けなければなりません。
工事の期間中に有効期限が切れないか注意してください。
・自動車検査証有効期限
該当の機械の車検有効期限を書きましょう。
・任意保険
持ち込む機械が移動式クレーンである場合は、任意保険の情報を書きましょう。
任意保険とは、自賠責保険でまかなえない損害を補償する保険です。
任意保険の証書の写しは、「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」を提出する際に添付する重要なものなので、紛失などには注意しましょう。
以下に、任意保険の項目の記入についてまとめました。
【対人】
対人賠償保険の限度額を書きます。
【対物】
対物賠償保険の限度額を書きます。
【搭乗者】
搭乗者傷害保険の限度額を書きます。
【その他】
その他の保険(車両保険など)を書きます。
【有効期限】
任意保険の有効期限を書きます。
・接触防止措置等
該当の機械による接触事故を防ぐための措置について記入しましょう。
例えば、「セーフティセンサーを作動させる」などと記載するとよいでしょう。
・機械等の特性・その他その使用上注意すべき事項
該当の機械を安全に使用する上で守るべき注意事項を書きましょう。
この項目へ記入する責任があるのは、機械を貸与する会社です。
機械を使用する会社には書く責任はありません。
ただし機械を使う際には、この項目に書かれている内容を熟読した上で、安全に気を配った作業を行う必要があります。
・元請確認欄
ここは元請会社が記入する欄です。空欄にしておきましょう。
・受付番号
元請会社から発行される番号の記入欄です。空欄にしておきましょう。
・受付確認者
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の提出後、元請会社に発行された受付番号を確認した際に、署名もしくは捺印をしてください。
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の「持込時の点検表」の書き方
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」のA3用紙の右側(もしくはA4用紙の2枚目)にあるのは、機械の点検記録を記入する「持込時の点検表」です。
自社の点検表を使う場合は、その点検表を「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」に添付してください。
・所有会社名・代表者名
該当の機械を所有する会社の名称と代表者の氏名を書きます。
代表者は、所有会社の出庫責任者でもかまいません。
・点検結果
点検結果の(a)列は、機械を所有する会社の確認欄です。
いっぽう(b)列は、持込会社・機械を使う会社・元請会社いずれかの確認欄です。
・点検事項
該当機械の点検時の必要事項が、あらかじめ記載されています。
この点検事項を見ながら、点検者は機械の該当項目を点検します。
特に問題がなければ、レ点(もしくは元請会社から指定されたチェックマーク)を付けていきましょう。
・点検日・点検者
点検を行った年月日と、点検者の情報を記載します。
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の添付書類
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の提出時に必要な添付書類は、以下の通りです。
・特定自主検査帳票の写し
・定期自主検査帳票の写し(該当する場合に限る)
・任意保険の証書の写し(移動式クレーンの場合に限る)
添付書類は忘れてしまうケースが非常に多いため、注意が必要です。
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の提出直前に用意するとあわただしくなってしまうため、あらかじめ写しを取りデータ化しておくことをおすすめします。
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の作成後は
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」が完成したら、該当の機械を持ち込む会社の代表者が、添付書類と共に現場の所長へ提出します。
労務安全書類(グリーンファイル)の中には、工事を開始する前に一度提出すれば以降は書類を作成しなくてもよいものもあります。
しかし、「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」に関しては、機械を現場に持ち込むたびに提出が必要です。
また、「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の提出後、該当機械の持込会社の代表者は、申請した機械台数と同じ枚数の「持込機械届済証(持込許可証・持込機械受理証など)」というステッカーを元請会社から受け取ります。
このステッカーは、該当の機械の見やすい所に貼りましょう。
ただし、元請会社によってはこのステッカーを発行せずに、受付番号の発行のみを行うことがあります。
ステッカーの発行を受けられない場合には、自社で用意しましょう。
あとがき
この記事では、「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」の書き方について項目ごとに詳しくお伝えしてきました。
建設作業で機械を使用する際は、安全への配慮が必要不可欠。
書類作りには手間がかかりますが、使用する機械について把握するための大切な作業です。
無事故の建設工事のため、書類作成にもしっかりと取り組んでいきましょう。
「(移動式クレーン・車両系建設機械等)使用届」以外の労務安全書類(グリーンファイル)について詳しく知りたい方には、こちらの記事もおすすめです!