法律上、一定の建設工事の発注・受注には、発注者と受注者との間で建築請負契約の契約書を交わすことが必要とされています。しかし実際には、注文書と請書だけで済ませてしまったり、古い契約書を使い回しているケースも少なくないのではないでしょうか。本記事では、建築請負契約の必要性と、建設業者が工事を受注する際に特にチェックするべきポイントを解説します。
建築請負契約ってどんなもの?
建築請負契約とは
建設業者(請負人)が、建設工事(仕事)を完成させることを約束し、注文者がその建設工事(仕事)の結果に対して、工事代金(報酬)を支払うことを約束する契約です。
請負とは、当事者の一方が相手方に対し仕事の完成を約し、他方がこの仕事の完成に対する報酬を支払うことを約する契約です。成果物の完成・納入に対して報酬が発生するところが、委任や業務委託など他の契約と異なる特徴です。
建築請負契約ではいわゆる「下請けいじめ」を防ぐため、主に注文者の側が様々な法律の規制を受けます。そのため、規制を嫌う注文者が、「請負」という文言を避け、契約のタイトルを「委任」「業務委託」などにしたがるケースもあります。しかしその場合でも、契約の内容が上述の定義に当てはまっていれば、「請負」という文言の有無に関係なく、法律上は建設工事請負契約として扱われます。
なぜ契約が必要か
工事の受発注から工事が完了し報酬が入金されるまで、注文者と受注者の間に何の疑問や不満、トラブルもなく円満に取引が終了すれば、正直、建築請負契約の出る幕はありません。
しかし、なかなかそうはいかないのが現実です。実際には、発注内容の変更、天災や人災などのトラブル、報酬の支払いが遅れる、経費を負担してもらえないなど、様々な問題や争いごとが起こり得ます。
そんなトラブルを防ぎ、または起こってしまったトラブルをスムーズに解決できるようにするため、建築請負契約は存在します。注文者と受注者との間で後々「揉めそうなこと」をあらかじめ想定し、「この場合はこうしましょう」と事前に決めておくことで、お互いが安心して、スムーズに仕事を進めることができます。
また、建設業法上、建設工事の請負には、署名又は記名押印され、一定の事項が記載された建築請負契約書を作成することが必要とされています(建設業法19条1項)。
建築請負契約に記載すべき事項
建設業法上、建築請負契約には次の事項を記載する必要があります。
一見すると量が多いですが、工期や代金の額、検査の方法など、建設工事をする上で「あたり前のこと」を明文化するだけの項目が大半です。身構える必要はありません。
1 工事内容
2 請負代金の額
3 工事着手の時期及び工事完成の時期
4 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
5 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
6 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合に
おける工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
7 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
8 価格等(物価統制令(昭和21年勅令第118号)第2条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは
変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
9 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
10 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
11 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
12 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
13 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は
当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
14 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
15 契約に関する紛争の解決方法
16 その他国土交通省令で定める事項
建設業(受注者)がチェックすべき建築請負契約のポイント
実際に工事を請け負う際は、「注文者との間に認識のズレがないか」「受注者が不当に損をする内容になっていないか」の二点に注目して、建築請負契約をチェックします。
基本条項
注文者と受注者の間に、工事の内容、工期、報酬の額と支払い方法などの条件について認識のズレがないか、確認します。
請負人の担保責任
工事の成果物が契約の内容に適合しない場合、受注者は注文者から①修補請求、②損害賠償請求、③解除のいずれかの責任を負わされる可能性があります(民法559条、562条)。
工事を請け負う側としては、注文者から過度な責任を負わされるリスクがないよう、自分の責任の範囲と内容をよく確認する必要があります。具体的には、修補や損害賠償の条件や内容が妥当か、注文者側に原因がある場合の免責が明記されているかなどです。
なお、2020年4月1日に改正民法が施行される前は、受注者の責任の範囲や内容が今とは違いました。古い書式の建築請負契約書を使っている場合、注意が必要です。
受注者を守る法律の順守
受注者が建設業法または下請法上の「下請事業者」に当たる場合、発注者との関係において、法律による保護を受けることができます。発注者の指定する契約内容がこれらの法律に違反する厳しいものである場合、受注者は従う義務はありません。
工事を請け負う際、建築請負契約に次のような内容が含まれていたら、専門家や行政の窓口に相談しましょう。中小企業庁では『下請かけこみ寺』という無料の相談窓口を設置しています。
■不当に低い請負金額
■注文者が受注者との協議なしに一方的に決めた請負金額
■請負代金の支払期限が長すぎる
参考:中小企業庁ガイドライン
参考:公正取引委員会
参考:中小企業庁『下請かけこみ寺』
まとめ
建築請負契約は、工事を請け負う建設業者が損をしたり、トラブルに合わないよう守ってくれる強い味方です。
毎回きちんと内容を確認の上、締結されることをお勧めします。