DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略称です。
これまでの産業構造を、テクノロジーを活かして変化させ、今までにないビジネスモデルや生活スタイルを生み出すことを指します。
建設業界では、設計・施工・労務管理などの分野でDX化を進めることを「建設DX」と呼んでいます。
建設DXが秘めているのは、多くの課題を抱える建設業界に変革をもたらす可能性です。
今回は、業界内で注目を集める建設DXを活用した、具体的な事例をご紹介します。
建設DXの事例1:清水建設株式会社
清水建設は、ゼネコンの中で唯一、DX銘柄2022に選出されています。
DX銘柄とは?
東京証券取引所の上場企業の中から、企業の価値を高めるDXを推進する仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を、業種区分ごとに選定して紹介するもの。
参考:「DX銘柄2022」「DX注目企業2022」を選定しました!|経済産業省
同社のDX銘柄への選出は、DX銘柄2021に続き2年連続です。
参考:「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」に2年連続で選定|清水建設
同社のデジタル戦略の柱は、以下の3つのコンセプトです。
・ものづくりをデジタルで
・デジタルな空間・サービスを提供
・ものづくりを支えるデジタル
上記の3点を実現する建設会社を「デジタルゼネコン」と定義し、目標としています。
デジタルゼネコンという経営戦略に基づき、組織づくりや人材育成、社内業務のデジタル化などを推進している点が、高く評価されています。
また、同社は、建物運用のDXをサポートする建物OS「DX-Core」の商品化を推進。
DX-Coreとは、エレベーターや監視カメラなどの建築設備やIoTデバイス、各種アプリケーション同士の相互連携や制御を、簡単にできるソフトウェアです。
関連記事:建設業のIoTってなに?メリットと課題点は?3つの活用事例もご紹介
すでにDX-Coreは、同社の自社施設である大規模賃貸オフィスビル「メブクス豊洲」や東北支店新社屋、北陸支店新社屋へ実装。
同社は今後、外部企業との協業によって、さらに広い建物設備システムとの連携を図るハードウェアやアプリケーションを開発していく見通しです。
参考:建物を一括管理するデジタル化プラットフォーム「DX-Core」|テクノアイ(清水建設の技術)
建設DXの事例2:鹿島建設株式会社
大手ゼネコンの鹿島建設は、「鹿島スマート生産ビジョン」によって、より魅力的な建築生産プロセスを目指しています。
鹿島スマート生産ビジョンのコンセプトは以下の3つです。
・作業の半分はロボットと
・管理の半分は遠隔で
・全てのプロセスをデジタルに
上記のコンセプトに基づく具体的な取り組みは以下の通りです。
作業の半分はロボットと |
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高度な判断や調整が必要な作業は、これまでと同様に「人」が担当。 一方、運搬などの付帯作業や連続作業は、鉄骨溶接ロボットなどの「ロボット」が担います。 人とロボットが、それぞれの得意分野を活かして協働するビジョンです。 |
管理の半分は遠隔で |
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人と人とのコミュニケーションは大切にしながら、「現地での確認」と「遠隔での確認」の組み合わせによって、よりスマートな現場管理を実現します。 現場確認の際は、「センシング技術(センサーによる計測)」を使ってヒューマンエラーを防ぎます。 |
全てのプロセスをデジタルに |
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設計・施工・維持管理の全プロセスを、デジタル情報にして管理します。 BIM(3次元モデル活用技術)や工程表、コストなどのさまざまなデータを連携し、より無駄を省いた計画へ。 また、VR(仮想現実)技術も取り入れ、疑似的に体験しながら仕様決めすることもあります。 |
鹿島スマート生産ビジョンのDX推進によって、同社では、工期短縮や作業者の熱中症予防、施工時の手戻り防止などの具体的な効果が見られました。
DX推進は、同社の大きな課題である「人手不足」を解消するカギとなっています。
参考:鹿島スマート生産|建築技術系リクルート特設サイト|鹿島建設
建設DXの事例3:大成建設株式会社
大成建設は、経済産業省の「DX認定取得事業者」や、国土交通省中部地方整備局の「中部DX大賞」を受賞し、建設DXの成功事例として注目されています。
中部DX大賞で評価されたのは、同社の現場管理システム「T-iDigital Field(ティー・アイ・デジタルフィールド)」による取り組みです。
T-iDigital Fieldとは、工事現場に点在する「ヒト」「モノ」「コト」のあらゆる情報を、デジタル技術によって取得・分析・連携させるプラットフォームです。
カメラ映像やIoTデバイスから得られる情報を可視化して、施工管理をサポートします。
T-iDigital Fieldの構造は、さまざまな情報をクラウドに集積・統合し、リアルタイム・デジタルツインを形成して関係者で共有するというものです。
関連記事:建設業界でデジタルツインに期待高まる!国内の活用事例やメリットは?
同社はT-iDigital Fieldの基本システムとして、下記のようなシステムを開発しています。
・建設機械の自動化・自律化システム
・強調運転を制御するシステム
・建設機械搭載型AIを用いた安全対策技術の人体検知システム
この仕組みにより、建設に関するあらゆる問題を予見し、解決・回避をサポート。
ミスやロス、無駄を防止し、現場の生産性・安全性が向上します。
また、T-iDigital Fieldは、すでに実際の工事に活用されています。
2021年には、土砂災害の復旧工事である逢初川水系応急対策工事に実装。
デジタル技術で人・物・地盤などの状況を把握し、作業者や住民の安全を確保しながら、迅速に工事を進めました。
建設DXの事例4:ダイダン株式会社
電気設備工事業のダイダンも、経済産業省の「DX認定取得事業者」に選定されているDX成功事例です。
同社はi-Constructionの推進に意欲的に取り組み、建設現場でのデジタル技術の活用を目指してきました。
関連記事:建設テック(ConTech)ってなに?概要と5つの技術を徹底調査!
特に評価されている同社の取り組みは、「現場支援リモートチーム」と「REMOVIS(リモビス)」の2つです。
現場支援リモートチーム |
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各地の現場に対して、本社や支店から効率的にサポートできるように編成されたチーム。 Web会議ツールやクラウド上のファイルサーバー、共通CADソフトを活かし、工程管理や図面作成などを遠隔で支援します。 経験年数の短い若手や時短勤務の技術者など、さまざまな人材を活用できます。 |
参考:現場支援リモートチームによる i-Construction の推進|ダイダン株式会社
REMOVIS(リモビス) |
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設備の稼働状況やエネルギー消費状況を、遠隔で監視できるシステム。 クラウド上で制御・監視機能が稼働しており、さまざまなIoTデバイスとも連携できます。 遠隔監視なので、エンジニアが現地へ赴く頻度を減らすことが可能です。 同社では、社内でREMOVISを活用するとともに、他社へもサブスクリプションサービスとして提供しています。 |
あとがき
今回の「C’Lab(シーラボ)」では、建設DXの事例を4つ解説しました。
多様な課題を抱える建設業界では、DXに積極的に取り組む企業が増加しています。
アナログのイメージが先行していた建設業界も、変わりつつあると言えるでしょう。
DXは大規模な技術だけではなく、クラウドサービスのような身近な技術も指しています。
「大手でなければ建設DXはできない」と意欲を押しとどめることなく、中小の建設会社の方も、ぜひDXに取り組んでみてください。