さまざまな業界で積極的に採り入れられているIoT。
とりわけ建設業では、IoTが注目されています。
そこで今回は、建設業でIoTが求められる背景や、IoT導入のメリットと課題点を解説します。
また、具体的な活用ケースもご紹介するので、ぜひ最後までご一読ください。
目次
建設業のIoT
まずはIoTの概要と建設業とのかかわりをご説明します。
そもそもIoTとは
IoTは「Internet of Things」の略語で、作業を自動化するための方法の1つです。
これまでインターネットにつながっていなかったものをネットワークにつなげ、さまざまなデータの取得や双方向の情報交換を実現します。
建設業でのIoTとは
重機や資材、作業員のヘルメットなど、現場のあらゆるものとインターネットを融合させることが可能です。
温度や湿度、位置情報などのデータを取得し、得られたデータを1つの画面に集めたり、双方向でデータ通信を行ったりします。
建設業でIoTを用いれば、現場監督者や作業員の皆さんの生産性を高めることができるのです。
建設業でIoTを活用したい背景
ここでは、なぜ建設業でIoTの活用が期待されているのか、3つの背景を解説します。
若年層の人材確保が困難
人材不足の課題を抱える業界は多く、建設業界も該当します。
現場で頼れるベテランの職人は高齢化が進み、将来的には一気に労働力不足になるおそれがあります。
若い人材の確保や育成が難しい理由は、建設業界に「3K(きつい・きたない・危険)」のイメージがついてしまっている点です。
建設業界を敬遠する若年層を獲得するには、新たな技術であるIoTの活用が欠かせません。
人件費の高騰
高騰する人件費も、建設業界の課題です。
国土交通省の「建設業における賃金等の状況について」を見てみると、2012年をきっかけに、建設業男性労働者の賃金水準は上昇を続けています。
今後も、人材減少や需要拡大から、人件費はさらに上がるでしょう。
人件費が高騰すると、利益率が低下します。
会社によっては、経験豊富で優秀な高齢職人が働き手の大半を占めているため、人件費は必然的に高くなります。
人件費高騰の問題解決の突破口となるのは、少ない労働力でも建設作業をスムーズに行うための仕組みづくりです。
労働災害の発生
建設業は、ほかの業種よりも労働災害が発生しやすい業界です。
厚生労働省の発表によると、2021年度に労働災害によって亡くなった人数は、建設業では288人です。
また、死傷者数では1万6,079人となっており、建設業での労働災害の多さを物語っています。
この頃では、高所作業中のハーネス着用の義務化などから重大事故は減少傾向にある一方、建機の倒壊や足場の崩落などは多発しているため、気は抜けません。
さまざまな技術が発展してきている近年。
これまでマンパワーで行っていた作業をIoTテクノロジーに任せることで、より安全な建設作業が実現するでしょう。
建設業でのIoT、メリットと課題点
建設業にIoT技術を採り入れた場合のメリットと、IoT導入の課題点をそれぞれご紹介します。
メリット
IoT導入の主なメリットを以下に挙げます。
コストの削減
現場作業をデータ分析し、本当に必要なスポットへの人員配置や、ロスをなくした資材管理など、最適な予算で作業が進むように環境を整えられます。
実務負担軽減
工程管理や資材管理などをIoTによって自動化すれば、わずらわしい実務作業を大きく減らせます。
実務負担の軽減によって、休日出勤や残業の回避も可能です。
事務作業の自動化
IoTで集めたデータはクラウドで管理できるため、事務作業の自動化が実現できます。
従来は手作業で行っていた事務作業を自動化することによって、ヒューマンエラーをなくすことが可能になります。
原価管理のしやすさ
IoTを活用して資材の在庫管理や仕入れを行えるので、帳簿管理が容易になります。
防犯対策
設置した無人カメラの管理をIoTで自動化すると、作業現場の24時間監視が可能です。
安全性の確保
人力では危険な作業場面にIoTデバイスを投入し、作業員の安全性を確保することができます。
作業の効率化
作業の進捗状況をクラウドに集めて保存しておけば、トラブル発生時の修復作業もスムーズです。
予知保全
IoTの導入によって現場の設備や機械を24時間監視できるので、部品交換やメンテナンス時期を的確かつ安全に行えます。
課題点
建設業にIoTを導入するためには、初期投資に少なからずコストがかかります。
デバイスの購入やインターネット環境の拡張、セキュリティの強化など、IoT活用にあたってある程度のまとまった費用が必要です。
また、導入後にIoTを本格的に使いこなすには、相応の研修を要します。
場合によっては、IoTシステムの運用を外部業者に任せることになるかもしれません。
コスト面と使いこなしの困難さの2点が、IoT導入の主な課題点であると言えるでしょう。
メリットの多いIoTを建設業に採り入れるには、2つの課題をクリアする必要があります。
建設業でIoTを活用した具体的なケース
建設業における、3つの具体的なIoT活用事例をお伝えします。
大成建設
大成建設は大手ゼネコンの1つです。
同社は、日本マイクロソフト株式会社と連携してIoTテクノロジーを導入し、活用しています。
例えば、主なシステムの1つに地震発生直後の建物の健全性把握があります。
同システムでは、インターネットに接続されたデバイスを活用し、地震が発生した直後に建物の健全性をすみやかに評価。
建物の所有者や管理者に、タイムリーに評価結果を通知します。
以前は、地震発生から少し間をおいてから、専門調査員が現地に赴いて建物の健全性を調査していました。
しかし、従来の方法ではタイムロスが生じ、調査の実施までは建物を使用できるかどうかはっきりしないため、時間が無駄になってしまいます。
大成建設のシステムを使うことで、地震発生直後の建物の安全性を迅速に可視化できるので、建物を使用できるかどうかの早急な判断が可能です。
出典:AI・IoTを活用した施設運用・保守事業の変革に向け協業を開始|大成建設
鹿島建設
大手ゼネコンの鹿島建設も、日本マイクロソフト株式会社と連携し、建物管理プラットフォーム「鹿島スマートBM」を開発。
2019年12月よりサービスを提供しています。
同サービスでは、空調や照明の稼働状況やエネルギー消費量など、建物にかかわるさまざまなデータをIoTによってクラウドプラットフォームに蓄積。
集めたデータをAIを用いて分析し、建物のランニングコストの削減や、機器の異常や故障の早期発見を実現します。
同サービスの利用によって、管理維持コストの削減や管理の最適化、居住者の満足度向上など、ビルオーナーの抱える課題解決が期待できます。
出典:新たなプラットフォームを活用した建物管理サービスの提供を開始|鹿島建設
村田製作所
京都府に本社を置き、電子デバイスの研究開発・生産・販売を行う村田製作所。
同社は、現場で働く作業者に向けた「作業者安全モニタリングシステム」を提供しています。
同システムでは、ヘルメットに装着できるセンサデバイスを用いて、作業者の活動量や脈拍などの生体情報や、周囲の作業環境の情報を計測。
熱ストレスや転倒・落下を判定し、現場監督者や事務所スタッフが作業者の安全を遠隔から確認することが可能です。
ほかにも、ヒヤリハットの検知やタッチレス入退場管理など、作業者の健康と安全を管理するさまざまな機能が搭載されています。
あとがき
建設現場のあらゆるものとインターネットをつないで、安全性や作業効率を高めるIoT。
導入に至るにはコスト面などの課題もありますが、IoTがもたらすリターンの大きさは保証されています。
IoTを活用した建設現場は、今後ますます増えていくでしょう。